何度も痛い目に遭っているのに、 つい備えが疎かになってしまう人間の性

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(トップ画像はNHKのyoutubeチャンネルから)

関東大震災から100年

ご存じの方も多いと思いますが、2023年9月1日で関東大震災(1923年)からちょうど100年を迎えます。日本政府はもとより、NHKや日本経済新聞等大手メディアでもたくさん特集が組まれました。改めて日本という土地に暮らす我々に地震の恐ろしさを伝え、そしていずれ来るであろう次なる地震への備えを呼び掛ける取り組みが多く行われています。

関東大震災は地震と直後に発生した同時多発的な大火災により10万人以上が死亡したと言われています。また、7万人以上が家を失ったという近代日本において最悪の被害が発生した災害でした。我々の記憶にまだ新しい東日本大震災(2011年)も大津波や原発事故の影響で大災害という印象が強いですが、記録上の死者・行方不明者は2万人台ですので、いかに関東大震災の被害が大きかったのか、推して知るべし、ですね。

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内閣府の防災広報誌で特集される「関東大震災から100年」

関東大震災は100年前の出来事ですが、これを「100年も」前の出来事と捉えるか、「たった100年」前に10万人を超える死者が出た災害が発生したばかりだ、と捉えるのか難しい問題です。少なくとも関東大震災当時と比べればはるかに東京周辺のインフラは強靭になっています。人々の防災意識も高まっているでしょう。関東大震災に伴う大火災の教訓を得て、防火用の空き地として公園が設置され、そこには消防設備も整えられるようになっています。

しかしながら、日本という国土に住んでいる以上地震の被害は繰り返しやってきます。そして時としてその被害はちっぽけな人間の想像力をはるかに超えることが多いことも我々は痛感しています。それでもしばらく自分自身が被害に遭うような災害が発生しないと備えが疎かになってしまうという事実を今一度見つめてみたいと思います。

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地震/津波/台風で何度も痛い目に遭っているのに備えは徐々に疎かに

海外での安全対策アドバイスを専門とする我々が申し上げるまでもなく、日本という国は毎年のように地震や津波、台風等の災害に見舞われています。次の図は過去20年弱でどういう場所で地震が発生したかがわかりやすく可視化された地図です。気象庁のデータ上、10年ごとに地図が分かれていますのが、ざっと見比べていただければ日本国内で過去20年(たったの20年です)地震の被害をまったく受けていないのは北海道の北側と山口県/福岡県周辺くらいということがわかります。

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気象庁の地震データベースから当サイト作成

1923年の関東大震災に匹敵する死者10万人超の被害はないにせよ、この20年だけでも被害が大きかった地震には以下のようなものがあります。

 

 2018年 北海道胆振東部地震 死者43名、住宅損壊約15,000棟 + 北海道全体の停電

 2018年 大阪府北部地震   死者6名、住宅損壊約62,000棟

 2016年 熊本地震      死者273名、負傷者約3000名、住宅損壊約200,000棟

 2011年 東日本大震災    死者・行方不明者 22,000人以上

 2007年 新潟中越沖地震   死者15名、住宅損壊約45,000棟

これだけの大きな災害がそれほど間を置かずに日本各地で起こっているわけですから、読者の皆さまも直接被害に遭ったことがある、という方も少なくないように思います。ご家族やご親族、あるいはご友人まで範囲を広げれば皆様の近しいかたが被害に遭っている確率は一層高まるでしょう。むしろ、ご自身やお知り合いの方が一人も地震の被害に遭ったことがない、というという方の方が珍しいかもしれませんね。まして、台風による床上浸水や暴風によるなんらかの家屋破損、畑や田んぼの被害経験まで入れればより多くの日本人の方が被害に遭っていることは疑いようもありません。

 

こうした災害が発生すると、人間の心理として一時的に防災意識が高まるようです。自分が住んでいない地域での大地震の様子をテレビ、新聞等で見聞きすることをきっかけに避難所を確認したり、食料や水を備蓄したり、あるいは家具を固定したりという経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

この傾向は内閣府の世論調査でもかなり明白に表れています。以下日本経済新聞に掲載されたグラフをちょっと見てみましょう。

日本の災害に備えている割合は典型的な「喉元過ぎれば熱さ忘れる」型(日本経済新聞の記事よりキャプチャ)

大地震が起こると、直後の世論調査では「家具等の固定」、「食料や水の備蓄」を行っている方の割合が増えます。そして、災害に無防備な「準備なし」という回答はちょっと減る、というのがこれまでの傾向です。ただし、大災害が起こるたびに備えをしている方の割合が高まっていくかというと実はそうではないことも読み取れます。

特に直近では「準備なし」の回答がじわじわと増加している様子が見て取れますね。最新の調査では約20%、つまり5人に1人は地震災害に無防備とアンケートで回答していることになります。また、「家具等の固定」「食料や水の備蓄」をしていると回答した方の割合も低下中。広い範囲に影響が及び、日本人全体の防災意識に影響を与えたと言っても過言ではない東日本大震災から10年以上が経過したことで、「喉元を過ぎてしまった」可能性も否めません。

 

ボクシングではガードが下がった瞬間のパンチが一番効果的で、一発ノックアウト(KO)はそういう時に起こります。前回の地震から時間が経ったからと言って地震のリスクが下がるわけではない。こんなことはこのコラムをお読みの皆さん全員が分かっておられるハズ。それでも地震への備え、ガードが下がってしまう、ということはぜひとも思い起こして頂きたいのです。

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海外でのテロや犯罪への備えは災害に比べて難しい

日本人がこれまで何度も何度も痛い目に遭ってきた地震を含む災害。当然のことながらそうした災害に備える重要性は誰もが痛感しています。にもかかわらず数年単位で大きな被害が発生しないと知らず知らず「備え」が疎かになってしまう、というのが実態です。これはもう、理屈ではなく、そういうものなのだ、と割り切るしかないのかもしれません。

 

地震と比して海外でのテロや犯罪は多くの日本人にとって「他人事」です。何度も痛い目に遭っている地震ですらガードが下がりがちな我々が、未知のあるいは自分たちへの脅威として海外でのトラブルを捉えられないのは致し方ないこと。大きな組織で、海外事業に関わる方が多ければ何年かに一度はスリや置き引き、あるいは強盗くらいの犯罪被害が生じることはあるでしょう。しかしながら、そうした痛い目の効果は長続きしません。

 

一度恐ろしい目に遭ったなら、後は自分で気を付けられるだろう

社内の被害事例をまとめたのだから、これで自分事として安全対策意識が向上するだろう

 

といった期待を安全対策を指導する側は抱きがちですが、そうは問屋が卸さないのです。繰り返しになりますが、地震や台風の被害ですら、我々はすぐに忘れます。災害に比して被害実態がイメージしづらい海外でのリスク対応はより一層忘れない工夫が必要です。常に警戒心を高めておきましょう、というのは無理な話ですが、定期的に海外渡航される方にテロや犯罪の怖さ、いざという時に備えた心構えや対処法を伝え続ける取り組みはどうしても必要なのです。

 

安全対策担当者というのは非常に因果な商売でして、頑張っても頑張っても何も起こらない以上の成果は残せません。しかしながら万が一自社/自組織の関係者が大規模なテロや犯罪等の被害を被った場合には「何をやっていたんだ」、と糾弾されることになります。なかなか報われないポジションではありますが、だからと言って被害を未然に防いだり、軽減する取り組みを止めることはよろしくないのです。

どれだけ痛い目に遭っても備えが疎かになりがちな人間の性質をよく理解し、安全対策に穴を開けないために何をすべきか。そして、必要な安全対策を繰り返し、繰り返し愚直に説明すること。地震や台風の被害をよく知る日本人だからこそ人間の性を踏まえた取り組みができるのではないでしょうか。

この項終わり