利益最優先主義の行く末
こんにちは、代表の尾崎です。新型コロナウイルス感染症及び日本国内外での自然災害によって被害を受けられている皆様に心よりお見舞い申し上げます。
さて、全世界的な災厄が発生する中企業経営の在り方も多く議論されるようになったように思います。長い間企業活動の目的は利益を上げることが第一であり、資本家(株主)への利益還元を重視してきたように思います。その結果、資本家と労働者の格差拡大が社会問題の一つとして取り沙汰されるようになっていたのではないでしょうか?
また、活動目標の一部に国連が提唱しているSDGs(持続可能な開発目標)を掲げる企業も増えてきました。目先の利益だけではなく、地球で暮らす人類とそして生物すべてが持続的に繁栄できるように、と目標を掲げて活動する企業が増えているということだと思います。
新型コロナウイルス感染症が拡大し、世界的に経済封鎖や商業活動の停滞が発生していますが、一部の企業では短期的な赤字を覚悟してでも雇用の維持を最優先するとの発表もなされました。株主の利益を優先するならば、赤字は許されないはずですが、世界全体にとっての危機に立ち向かうために利益最優先をいったん横に置いたという形ですね。今後、ワクチンや特効薬の開発などの分野で社会的な役割を意識しながら活動する製薬会社、化学会社などが増える可能性もあります。
こうした動きは社会の公器としての企業の役割が果たされているとの見方もできるかもしれません。資本主義、経済成長の名のもとに利益最優先で走ってきた企業が、時代の流れと共に役割の転換を検討し始めているのではないでしょうか?
「人」への投資は費用か資産か?
企業の変革を促しているのは、決して倫理や正義感、あるいは国連の呼びかけだけではありません。資本主義の特徴でもある、資金集めにおいても非財務情報を幅広く評価するESG(環境・社会・企業統治)投資が注目されています。
Environment(地球環境)
Social(社会的な意義)
Governance(公正・透明な企業の在り方)
単なる経済性、効率性だけでなく、企業が有する見えない価値を評価し、より価値の高い活動を行う企業に投資を行おうという動きです。例えば、プラスチック使用量の削減や二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電の停止は地球環境の保全に寄与します。女性や障害を持つ方も働きやすい職場環境を造ったり、例え工賃が安くとも児童労働等を行う企業との取引を避けるのは社会的な意義の高い経営方針と言えるでしょう。不正な経営を行わない、情報公開を徹底するといった企業統治のあり方も時代の要請にこたえる姿勢です。
こうしたESGに加えて最近金融市場では各企業の「人」に対する姿勢、つまり一般の従業員をどう扱うかにも向かっていると言われています。従業員を単なる労働力ではなく、「人的資本」(ヒューマンキャピタル)と再定義し、企業価値を高めるための『人財』が所属している企業には投資が集まるようです。例えばドイツのソフトウェア大手SAPが開発し、活用している「従業員エンゲージメント指数」(EEI)は高ければ高いほど、企業の利益率も高まるという研究結果があり、専門のコンサルタントも存在しています。
2020年7月7日付の日経新聞記事によれば、日本でも「人」に投資することは、企業の生産性・利益率を向上させ、企業価値を高めるとする動きがあるのだとか。具体的な事例として大手製薬会社エーザイの事例を取り上げています。
8月に公表する統合報告書の中で人への投資と株価の関係などを開示する見通しだ。例えば「人件費を10%増やすと遅延して5年後のPBR(株価純資産倍率)が14%上がる」といった感応度分析を報告する。柳良平最高財務責任者(CFO)は「人への支出は少なくとも管理会計上は費用ではなく、資産計上する投資と考えるべきだ」と語る。
従業員への教育や福利厚生をコストとして捉えるのは時代遅れの考え方なのでしょうか。未来への投資であり、さらに言えば資産として計上したっていい、というのが最先端の動きなのかもしれません。
企業・団体にとって「人」を守るという意味
お伝えしてきたように、企業が経済的な利益を追い求めるだけの時代は終わりつつあります。地球環境や各種のステークホルダー、そして何より従業員を大切にし、能力が発揮できる環境を整えることが企業・団体とその経営者層の責務となっていることがお分かりいただけたのではないでしょうか?
SDGsやESG投資、あるいは「人」の能力開発に関する投資は既に起こった価値観の変容です。完全の世の中に浸透するためにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、一定数の方がその重要性に気づき、行動を起こそうとしている変化でもあります。しかしながら、まだ世の中に広まっていない投資もあるのではないでしょうか?尾崎は企業や団体が従業員や関係者を本気になって守ること、一人一人の健康と安全の確保のための費用はまだコストとして捉えられているのではないかと感じています。
特に海外での安全管理にはお金がかかりますし、日本の常識ではなかなか考えられない項目もカバーしなければなりません。費用ばかり掛かって、本当に役に立つかどうかわからない、そもそも効果があるのだろうか?とお考えの企業もまだまだ多いように思うのです。確かに、日本ではよほどのことがない限り一般的ではない安全対策もあります。
駐在員の自宅に警備員!?
専門の運転手や衛星携帯電話なんかいるのか!?
安全管理に関する講習会って意味あるの??
滅多に使わない緊急事態のための搬送体制を確保すると金がかかりすぎる
といったご意見もわからなくはありません。
しかしながら日本でも自宅のドアにカギをつけないということはまずありえないでしょう。緊急時の安否確認に使う携帯電話を持っていない方はかなり少数派のはず。また、必要に応じてホームセキュリティシステムを導入したり、お子さんにGPSを持たせたり、という取り組みは富裕層と呼ばれる方以外にもかなり広がってきているように思います。こうした取り組みには当然お金がかかっているはずですが、家族の安心・安全のためには不可欠な費用、必要な投資、として理解が広まっているのではないでしょうか。
海外での安全管理や健康管理にはお金がかかります。しかしながら海外で事業活動を行う、従業員・関係者を派遣するということは日本とは全く別のリスクがある地域に送り込むということでもあります。せっかく『人財』として育てた従業員も不幸にして健康を損ねたり、テロや犯罪による死傷の影響で活躍できなくなってしまったら元も子もありません。万が一の際には、『人財』を失うだけにとどまらず、企業・団体の責任を経済的・社会的に負うことにもつながりかねません。
従業員・関係者が活躍し続けるということは、企業・団体が発展し続けるための必要条件の一つ。そして従業員・関係者を守ることは企業・団体を守ることでもあります。従業員・関係者を守るための費用は決して「コスト」ではなく、輝かしい未来を築くための「投資」なのです。SDGsやESGに関心がある経営層の皆様にはぜひこのことをご理解いただき、海外での安全対策に主体的に取り組んでいただければと思います。
この項終わり