なぜマニュアルや業務手順書は無視されるのか?
前項では柏崎刈羽原子力発電所を中心とした東京電力株式会社の失態、不備をご紹介しました。ただし、こうした事態は決して同社特有の現象ではありません。民間企業各社においても、また、政府機関や日本各地の病院等でも似たような法令違反、マニュアル無視、業務手順書の軽視は多く発生しています。企業コンプライアンスは専門外の当HPで把握している限りでも以下のような事例が確認できました。
・東海村JCO臨界事故
・製造した自動車の完成検査を無資格者が実施(自動車メーカー)
・消費期限の社内基準を満たさない商品を出荷(複数の洋菓子、和菓子メーカー)
・社内マニュアルに基づかない担当者個人プログラムの利用でデータ消失(サーバー管理会社)
・厚生労働省の「毎月勤労基本統計」の不適切な統計処理(雇用保険や労災保険の過小給付)
特に影響が大きかったのは死者2名に加え700人近い放射線被曝者が出た東海村JCO臨界事故。放射性物質を用いる工場ですので、元来安全第一どころか、安全最優先で業務を実施しなければなりません。しかしながら、日本原子力産業協会が公開しているコラムにある通り、臨界事故を防ぐため作業工程や一回当たりの作業量に細かい規定がありました。
しかしながら、JCOの工場内では安全ではなく作業効率を重視し、日常的に一部工程をすっ飛ばすとともに、一回に投入する放射性物質の量もマニュアルで定められた量の6~7倍になっていたのです。JCOでは国の許可を得たマニュアルとは別の「裏マニュアル」を作成しており、さらに事故が発生した前日からはその「裏マニュアル」すら無視した作業が行われ、結果的に大事故が発生してしまったとされています。
安全よりも作業効率を優先する、という状況は実際に作業を担当する人間からすれば
「このくらい大丈夫だろう」
「いつもなんともないからな」
という感覚でマニュアルを無視して行われてしまうこともあります。
それを防止するために経営層や管理者層が安全文化を作らなければならないのですが、組織ぐるみで「裏マニュアル」が作成されていたことを考えれば、経営層や管理者層もマニュアル無視を容認(もしくは採算を重視して推奨)している事例もあるのでしょう。
こうしたマニュアル無視、業務手順書無視は日本政府のみならず、民間企業でも多く発生しています。ここまで大きな事故はありませんが、海外での安全管理に関して当サイトがご相談を頂いたクライアントの中には本来あるべき危機管理体制が日々の実務上機能していない、というケースも複数ありました。
もしかしたら皆さんのすぐそばで起こっていてもおかしくありませんね。
【次ページでは・・・マニュアル無視を常態化させないために重要な考え方をご説明します】