「コロナ」だけじゃない!海外で要注意の感染症

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注意すべき感染症は多数ある

本コラムを執筆している2021年6月中旬時点で、新型コロナウイルスの影響は依然として世界各地に広がっていますアメリカでは同ウイルスに関連するとされた死者数が60万人を突破しました。日本でも三度目の緊急事態宣言が解除される見通しですが、宣言の解除をもって完全に各種の自粛要請がなくなるわけではない、というのは皆さんご存じのとおりです。

 

他方で、世界各国でワクチンの接種が加速しているのも事実です。

国別の新型コロナウイルスのワクチン接種者割合(Our World In Dataのウェブサイトよりキャプチャ)

ワクチンを接種したからと言って、新型コロナウイルスに100%かからなくなるわけではありません。加えて、今まさに増え続けている「変異株」に既存のワクチンが効果的なのか、も検証を続けなければなりません。薄日が見えてきてはいるのですが、まだまだ新型コロナウイルス感染症へのガードを下げてはいけないタイミングと言えるでしょう。

 

では、新型コロナウイルスを克服すれば、感染症に気を使わなくてもよくなるのでしょうか?

 

いいえ、当サイトではそうは考えていません。皆さんご存じのインフルエンザは今年の秋以降再び流行する可能性があります。新型コロナウイルスによるパンデミックの前は日本で大勢が死亡する感染症と言えば代表例に挙げられていましたね。

さらに、開発途上国を中心に、世界各地には日本でほぼ根絶されてしまった感染症が発生しているという例が多々あります。

 

その一例が狂犬病ウイルスによって致死的な症状を発症する狂犬病です。日本政府厚生労働省が発表している世界各地の狂犬病発生状況を確認してみましょう。日本やイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、北欧諸国は青く表示されていますね。これは厚生労働大臣が認定している狂犬病の「清浄国」を示します。これらの国ではほとんど狂犬病の発症事例がなく、万が一犬に噛まれても狂犬病ウイルスに感染する可能性が極めて低いとされる国です。

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世界の大半がオレンジ(狂犬病発生地域で死亡推定者数が年100人未満)もしくは茶色(狂犬病発生地域で死亡推定者数が年100人以上)であることに気づかされます。日本では犬に噛まれても狂犬病を警戒する必要はなく、狂犬病の予防接種も必ずしも必要ではありません。しかしながら、世界の大部分の地域に狂犬病の予防接種を行わずに赴任することは危険な行為です。

 

アフリカではマラリアにも十分な注意が必要です。蚊によって媒介されるマラリア原虫が血液中の赤血球で増えることによって高熱や頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。場合によっては命にも関わる病気であり、毎年2億人が感染しているとの報告もありますWHO World Malaria Report)。新型コロナウイルス感染症の感染者数は発生から約1年半経過しても2億人に届いていないのですが、マラリアは「毎年2億人」が感染しているのです。しかしながらアメリカやイギリス、日本等の先進国にほとんど影響がないこともあり、コロナウイルス関連の報道と比べて取り上げられ方が地味です。

 

こちらのコラムでご説明した通り、報道されていない=存在しない、というわけでは決してありません。アフリカに渡航される方は必ず

 

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新型コロナウイルス以外の要注意感染症

犬や野生動物に嚙まれたり、舐められることもなければ、アフリカに行くわけではないので大丈夫。なるほど、例えば東南アジアの都市部などでは新型コロナウイルス以外に注意すべき感染症はそんなにないのでしょうか?

 

いいえ、東南アジアやインド、あるいは中南米でも蚊によって媒介されるデング熱もそれほど有名ではないかもしれませんが、注意が必要です。高熱と頭痛、関節痛に加え、場合によっては出血を伴うショック症状が生じることもあります。重症化した場合には死に至ることもあるのですが、こちらも日本ではめったに報道されません。(直近では、2014年にデング熱の感染拡大が懸念され、代々木公園等が封鎖されるといった事態に至り、この時は大きく報道されました

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日本ではほとんど感染事例がないが、日本人の訪問の多い東南アジアや中南米では感染事例の多いデング熱のリスクマップ

 

地図でもオレンジ色になっているハワイでは2016年、デング熱の感染が拡大して「非常事態宣言(State of Emergency)」が発令されています。

新型コロナウイルス感染症が広まって以降、感染症対策に関連した非常事態宣言は日本人の皆様にも広く認知されるようになりました。しかしながら、多くの観光客が訪れるハワイで感染症に関する非常事態宣言が出たことをご存じだった方はそれほど多くないのではないでしょうか?同じような緊急事態宣言はパラグアイやインド他流行地ではめずらしくありません。

 

もう一つだけ事例を挙げてみましょう。2020年4月24日、ロイター通信は新型コロナウイルス感染症に伴う外出禁止が解かれた後、要注意の感染症としてレジオネラ症に注目した記事を公開しました。

日本ではなんだかんだで人が出勤しているので発生の可能性は小さいのかもしれませんが、オフィスビル等しばらく使われていなかった建物では滞留していた水でレジオネラ菌が繁殖している可能性があるので、水を使う時には気をつける必要がある、との趣旨。実際にレジオネラ菌を原因とする「レジオネラ症」は温泉やスポーツジム等のジャグジー、加湿器等長期にわたって水分が残っているような場所を起点として日本でもしばしば発生しています。

詳しくは国立感染症研究所のレジオネラ症を解説したページを参照していただければと思いますが、レジオネラ菌も肺炎を起こす原因で、新型コロナウイルス発生前、日本で発生していた肺炎の約5%はこの菌が原因です。同じ感染源から同時に集団感染することはありますが、人から人に感染することは限定的とされています。

 

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なお、記事にはありませんが、長らく人間が立ち寄っていなかった都心部のビルではその間ネズミが徘徊している可能性も否定できません。普段人間が大勢いると滅多に目にすることはありませんが、東京周辺にもネズミはかなりの数生息しています。

当サイト代表の尾崎が大学時代所属していた研究室では、都市のネズミは殺鼠剤に耐性を持つ個体が多い、という研究を論文として発表しています。一連の研究では新宿、赤羽(東京都)、市川、鎌ケ谷(千葉県)で捕獲されたネズミを対象に殺鼠剤の耐性を調査しています。ご存じの方も多いかと思いますが、ネズミも多くの病原体を媒介する動物です。

 

日本語の報道では連日新型コロナウイルスのことばかりが報じられています。その一方で、メディアでほとんど触れられることはありませんが、現実の世界では人間が生きていく上ではありとあらゆる感染症と隣り合わせです。もちろん新型コロナウイルス感染症は大きなリスクの一つではありますが、そのリスクばかりに気を取られていると他のリスクを見落とす可能性もありますね。

 

安全対策や危機管理の担当者は一つのリスクにばかり気を取られてはいけません。特に既に多くの人がその存在を認識し、行動を変えようとしているケースではなおさらです。そういったリスクは横目で見ながら、さらに悪いことが起こった時にどうすべきか?、他に見落としているリスクがないだろうか?といったことにも気を配ってこそ、危機を未然に防いだり、万が一第二、第三の緊急事態が発生した場合でもなんとかこらえることができるようになるのです。

 

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海外駐在する場合は事前の予防接種が必須

さて、海外に長期間駐在する場合、安全対策と並んでご心配の種になるのは現地での体調管理ではないでしょうか?特にご紹介してきたような、日本ではほとんど問題にならない感染症への対策が必要な国もありますので、ご注意ください。日々の体調管理を除き、日本国内で準備ができる感染症対策と言えば、ワクチンの予防接種です。新型コロナウイルスのような新しい感染症とは違い、安全性や効果が検証済みのワクチンが用意されているという病気もたくさんあるのです。

 

約2年の間海外旅行や駐在/海外出張が制限されてきましたが、今後アフターコロナ時代を迎え海外渡航を再開する場合にはまず渡航する国、地域でどのような予防接種が必要か、確認してみましょう。その際、正確かつ網羅的に確認できるサイトとして厚生労働省の検疫所HP(FORTH)をご紹介します。

 

こちらのトップページにある地図をクリックすると、駐在する可能性がある国を選べるようになっています。例えばインドを選択して表示された情報をお示しします。

具体的に現地の気候と気をつけるべき病気のリスト、そしてどのような予防接種を受けるとよいかまで丁寧に説明されています。こちらは日本政府厚生労働省の一部門が公開している情報です。日本語でまとめられた情報でこれ以上に信用できる情報はまずありませんので、海外駐在を検討される際、特に衛生環境や駐在前に必要な予防接種はこちらのページをぜひご確認ください。

 

 

 

なお、外務省の安全ホームページにも「感染症危険情報」という枠が設定されています。しかしながら、情報がない国の方が多いというのが実態です。いくつものサイトを確認しなければならないのは不便ですが、ここは日本政府の中でも医療、衛生を担当する厚生労働省のHPをご参照されることをおススメします。

 

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは遠からず、過去のものになる見通しです。しかしながら、新型コロナウイルスを克服したからといって人類が感染症の脅威から解き放たれるわけではありません。まして、海外に渡航し、現地で活躍される皆様、現地で思いっきり楽しみたい旅行者の皆様にとって感染症でダウンしてしまうことは大変もったいない出来事です。

その観点で、日本ではほとんど発生事例のない感染症、日本のメディアではほとんど報じられないへの警戒を怠ってはいけないのです。新型コロナウイルス以外の感染症にも十分注意を払い、情報収集と必要な予防接種のご準備をされるようおススメします。

 この項終わり