安全対策措置を緩和するタイミング~理論編~

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目的に叶った安全対策とは・・・

安全対策というと一般的に

 

●●地域は危ないので立ち居らないでください

◎月◎日はこういう行事があるので外出しないでください

リスクを避けるため、こういう行動は控えてください

日本と治安情勢や現地の慣習等が違う場合も想定して日本の「当たり前」を持ち込まない

 

という「するべからず」の通達が多くなります。自分や関係者の身を守るためには行動範囲や行動時間、もしくは服装、持ち物に至るまで細かく制限するのはやむを得ません。危ない場所に危ない時間帯に近づかないこと、これが安全対策の原理原則であるためです。

 

ただし、安全対策の在り方として危ない!、危ない!とだけ言っていることもあまり意味がありません。なぜなら、安全対策はそれそのものが目的にはなりえず、事業や旅行などなんらかの目的を達成する途中で死傷しないための工夫でしかないからです。

安全が唯一無二、最も大切なのであれば、リスクの大きな海外に行かず、日本国内にとどまっていることがベストという結論になってしまいます。それでは事業が立ち行かない、日本ではできない経験をしたい、といった目的を達成するために海外に出ていく必要があるのではないでしょうか?そして、より安全に海外で過ごすための工夫の一つが安全対策なのです。つまり、海外に駐在・滞在する目的を見失ってしまうほど安全対策と称して「あれはダメ」「これもダメ」と言い続けることは適切な安全対策措置とは言えません。

 

本来あるべき安全対策とは、事業なり旅行なり、海外に行く目的とどの程度リスクが取れるかを天秤にかけて目的達成のために最低限必要な注意喚起、行動制限等を行うものなのです。このため、警戒していたリスクがなくなった、あるいはリスクのレベルが下がったのであれば、安全対策措置、各種行動制限を緩和してしかるべきです。そうでなければただただ、「危ない」と言い続けることが安全対策の仕事になってしまいます。

具体的な事例として挙げるなら、現在依然として新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは収まっていませんが、イギリス政府は直近の感染状況を踏まえオーストラリアに対するトラベルアドバイスをパンデミック前のレベルに戻しています。また、日本政府もベトナムや韓国等一部の国とのビジネス上の往来については緩和していますし、企業の皆さんもそろそろ海外展開先への駐在・出張を再開/規模回復させたいと考えておられるかもしれません。

uk_Australia_Travel_Advice
イギリス政府は2020年10月15日の時点でオーストラリアに対する渡航制限は全て取り下げ済み

 

では、実際問題安全対策を緩和するというのはどういうことを意味するのか、またどういうタイミングで緩和ができるのかを考えてみましょう。

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安全対策の緩和は難しい

皆さんが安全対策の担当者だとしましょう。

A地区が危ないという情報を聞いたらどうしますか?また、未知の病原体の可能性がある感染症が流行していると聞いたらどうでしょうか?

根拠が多少あやふやでも「危ない」という情報が入っているのだから、安全サイドで関係者に注意喚起するのではないでしょうか?

 

「A地区は危ないという情報があり、念のため当面の間近寄らないようにしてください」

「未知の感染症が流行しているので、今海外への渡航は避けてください」

 

このように通知しておけば、万が一関係者がなんらかの被害に遭っても「私は情報を流していました」と言えますし、その状況下でA地区や海外に行った被害者が悪い、という話になることが往々にしてよくあります。危険だ、という情報を流す、もしくは行動制限や各種規制を厳しくする分には重たい責任を取らされることはあまりないとも言えます。(関係者が複数死傷すれば話は変わってきますが)

 

その反対に、

「B地区はこれまでに比べて安全になったので、これまでの規制を廃止します」

「感染症のレベルが落ち着いてきたので、海外渡航を再開しても大丈夫です」

と発表するとどういうことが起こるでしょうか?安全対策措置を緩和した矢先に、万が一B地区でテロや凶悪犯罪が発生した場合、緩和を決定したのはなぜなんだ?安全対策担当者はリスクを過小評価していたんじゃないのか??と責任論が沸騰するのではないでしょうか?

 

安全対策を担う立場からすれば

 

「危ないので、これをやめてください」

 

という分には楽なのです。その反対に

 

「この地区はもう大丈夫なので、これをやってもOKです」

 

というのは難しい、この事実を理解することが大変重要なのです。

「どこかに行っていいです」と明言することは安全対策上大変勇気がいる行為

 

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安全対策担当者には何をやっても文句が来る

実際にリスクが一時的に高まった後、少し状況が落ち着いたケースで安全対策担当者はどのように判断すべきなのでしょうか?前述したように、リスクが高まっていると考えられる場合はあまり迷わずに安全対策を強化できます。

 

新たにこういうリスクがあるので、◎◎を禁止します

 

と発表する分にはあまり大きな責任を負わないためです。

 

しかしながら、状況が落ち着いたにも関わらず長い間警戒態勢を解かないとどうなるでしょうか。今なら新型コロナウイルス感染症の影響が小さくなってきた(ただし予防接種も特効薬も現時点ではない)といった状況で渡航制限や現地の行動制限を緩和できるでしょうか?テロや犯罪のリスクが小さくなったと100%の根拠を示せない状況下で海外の事業現場で活躍する関係者の方々から

 

 「行動制限が理由でお客さんを十分に訪問できない」

 「ライバル社は安全対策措置を緩和して、現地業務が再開されている」

 「日本人でどこそこ(レストランやレクリエーション施設)に行けないのはうちくらいのもの」

 

といった不平不満をぶつけられたらどう対処しますか?

安全対策措置を緩和して行動制限を緩めたがために「何も起こらない」状況が崩れてしまったら・・・。安全対策担当者(部門)の評価は暴落し、ありとあらゆる批判を受けることになりかねません。

安全対策担当者(部門)は電気やガス、公共交通機関同様「当たり前の状況を維持しているのに評価されにくい」が「事故が発生すると評価が急落」しがち

安全対策を強化すれば事業現場から文句を言われ、安全対策を緩和すれば、本社や上司から「本当に大丈夫か」と言われる上に万が一のことがあれば批判と責任論が降ってくる・・・。安全対策担当者(部門)はイイことがないですね(苦笑)。次回はそんな苦しい立場に置かれている皆様のために、具体的な安全対策の緩和タイミング、緩和の条件をご説明したいと思います。

この項終わり