マニュアルの裏側にある「なぜそうするのか?」を大切に
では、なぜこういったマニュアル無視、業務手順書無視が発生してしまうのでしょうか?
現場での作業を楽にするために、
無駄なコストを少しでも省くために、
マニュアルを無視しても何も事故が起こらなかったから、
直接的な背景はこのような動機付けによるものでしょう。
ただ、こうした動機付けの背景にあるのはそもそもマニュアルがなぜ存在しているのか?が認識できていないという問題です。なぜ、マニュアルが作られたのか、なぜ面倒な業務手順になっているのか、を理解すれば、たとえ作業が楽になろうが、コストが安くなろうがやってはいけないことはやってはいけないと認識できるはずなのです。
100名上の死者を出した事故を経験した某組織の安全読本には
「なぜマニュアルってあるの?」
という項目が設けられています。その項目ではマニュアルが作成される意味合いや先輩がマニュアルに基づき後輩を指導する際に、根拠や過去の失敗事例も示す必要がある、といった解説が書かれていました。マニュアルというと、日々の業務をどのようにするか(How)に目が行きがちですが、なぜそう定められているのか (Why)を理解して初めて意味があるのです、とも記載されています。
大事故発生直後は直接事故に関わった社員も多く、反省点や教訓が組織内に広がります。しかし、大事故から長らく時間が経過すると、そもそもその事故をリアルタイムで経験していない社員も増えてきます。事故の経験がなければマニュアルに記載された詳細な手順や制約は一見、古臭い、組織都合の塊に見えることもあります。しかしながら、大事故を経験した人間や、日々安全の意味を考えている部署・担当者からすれば、そのマニュアルを無視することは事故の再発に直結すると感じてしまうもの。マニュアルを作成し、真の意味で活用するためには、先輩から後輩に、安全担当部門から一般社員に、目的や根拠を理解し、やらされ感や無意識での手順の省略等が発生しないようにしなければならないのです。
そして、もしマニュアルが作業現場や海外での実務に沿っていない、と感じる時には正しく変更できるよう、マニュアル改訂のプロセスも定めておきましょう。過去の事故や教訓を踏まえて作成されているマニュアルを勝手に変更することはコンプライアンス上の問題になるだけでなく、なにより現場の安全を脅かす可能性があります。
「現場の実態に合っていないので変更したい」
「マニュアル作成時から状況が変わっている」
「マニュアルで想定していない『抜け道』が生まれてしまっており改定が必要」
といった理由でマニュアルを常に最新状態にしておくことは大切なこと。ただし、その変更が不必要なリスクを背負わないよう、マニュアル改訂のプロセスは必要な関係者を巻き込んで行われるべきなのです。
東京電力の一連の不備についても、内部でマニュアルや作業要領の定期的な見直しが行われていれば事実上の再稼働停止命令にまでは至らなかったのではないでしょうか?例えば点検保守を繰り返す中で、この点検保守作業では十分に核物質の安全な活用ができないとして作業要領が変更されていれば状況は改善していたはずです。
大きな事故を防ぐことはもちろんのこと、毎日のオペレーションを続けるためにも関係する法規制、社内のマニュアルや業務手順書がなぜ存在しているのか、は常に考える必要があると考えます。
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