安全管理は手段、目的化してはいけない

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外出/営業自粛そのものは目的ではない

5月14日、日本政府は東京都や大阪府を除く39の県で新型コロナウイルス感染症拡大に関する緊急事態宣言を解除しました。残る8つの都道府県でも一週間後の21日を目途に緊急事態の解除を検討するとのこと。これまで外出/営業の自粛や通勤・通学を控えてきたわけですが少しずつ日常を取り戻す取り組みが始まりました。

 

残念ながら緊急事態宣言の解除は新型コロナウイルスがいなくなることを意味しません。感染する可能性は依然として残っていますし、ワクチンや特効薬も見つかっていません。緊急事態宣言の有無に関わらず、健康維持のために可能な対策(手洗い・うがい、早寝早起き等)を実践する必要があると考えています。

 

さて、日本では一部の国と違い、緊急事態宣言下で求められている外出や営業の自粛に強制力がありません。これは根拠となる法律がないためです。法律に基づいて外出を抑制できる、あるいは罰則を定めている国では罰金や禁固を伴う措置も講じられています。(例えばカタールでは公共の場でマスクを着用しないと最大3年の禁固もしくは約600万円の罰金が定められています)

 

こうした状況下、日本では自粛要請を守らない店舗やマスクを着用していない人に対し、法律とは全く別の次元で他人の行動を制限しようとする方もいらっしゃるようです。NHKの報道によれば、「自粛警察」と称されるような独自の正義感に基づく行為が発生しているとのこと。

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中には、感染を避けつつ、お客様に楽しんでもらうための「無観客(遠隔)ライブ」ですら自粛を求めるよう迫ったり、事実関係を確認せずに他人をコロナウイルス感染者と断定してしまったり、という行為も散見されるのだとか。法律に基づかず、独自の正義感によって他人に罰を与えるような行為、つまり私刑は憲法31条で明確に禁止されています。自粛要請には法律上禁止はされていないので、むしろこうした「自粛警察」のような活動だけが法律違反と言うことになります。実際にNHKの番組でも虚偽の情報を書き込んだ人物が刑事事件で立件されたケースもある、としています。

 

 

こうした行き過ぎた自粛要請やマスク着用の強要の背景にはさまざまな要因があると思われます。NHKの番組では防衛本能の現れや、悪意のない情報拡散という指摘がありました。当サイトではこれらに加え、本来感染の予防・急速な感染拡大の防止という目的のために行われている外出/営業自粛やマスク着用そのものを目的だと誤った認識を持ってしまってはいないか、という仮説を持っています。本来の目的達成のための手段である外出/営業自粛やマスク着用が目的化してしまうことにより、自粛をしない他人を糾弾する、マスク着用していない人物に法律に基づかないマスク着用を求める、といった行為につながっていないでしょうか?

 

安全や健康を守るというテーマになると、天秤の片側が「人命」になることがままあります。このため、極端に保守的な判断がなされてしまうケースを見かけますがこれはまさに目的が手段化している事例と言えるかもしれません。

 

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安全対策措置は事業目的達成のためのツール

海外で事業展開をしている、あるいは新たに事業展開を計画している企業・団体の中には極端に安全面の心配をされている方がいらっしゃいます。大規模な戦闘行為が続いているといった事情があり現地の治安・政治情勢がよほど悪ければ別ですが、たいていの国では必要に応じた安全対策措置を講じることで、ある程度リスクを低減することができます。

 

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保守的な考え方に立てば、事業対象国・地域がちょっとでも危なっかしければ

 

進出を断念する

現地に日本人を極力派遣しない

事業拠点を撤退させる

行動制限を強化し、外出を一切認めない

 

など事業展開の意味合い、事業効率、あるいは関係者の心身の健康維持等以上に安全対策を優先したくなる気持ちはよくわかります。ただ、それは安全管理のための安全管理であって、本来企業・団体の皆さんが取り組むべきミッションが置き去りになってはいないでしょうか?

 

安全管理そのものを目的化することは、人命や資産の保全には役立ちますが、本来の目的達成には必ずしもプラスではないのです。なぜならば、本来安全管理は手段だからです。皆さんが達成したいミッションあるいは、海外で取り組みたい活動が中心にあり、その実現を阻害する要因であるテロや襲撃、一般犯罪、交通事故等、各種リスクへの備えをしておく。これが安全管理の基本的な考え方なのです。

 

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「何のために」を見失った安全管理は無意味

 

達成したいミッションや海外で取り組みたい活動を実現するために、安全を犠牲にしなければならないのか、と問われれば我々は確信をもってNOと答えます。皆さんが担われている使命、達成したい目標等を達成するためには世界各地で活動し続けなければなりません。使命や目標のために取り組んだ結果、死んでしまったけれどもOK、というわけではないですよね。

そう、使命や目標を達成するための取り組みを継続していただくための必須の方策が安全対策なのです。皆さんが安全を犠牲にして使命や目標に取り組むのではなく、皆さんの使命、目標を達成するための取り組みを継続するために行うべきこと、それが安全対策です。なんのために皆さんが海外に進出していくのか?これをはっきりさせることが最初です。

現地の治安・政治情勢を踏まえて、どうやれば皆さんの目標が達成できるのか?を考えましょう。たいていの目標は現地である程度の期間活動し続けなければなりませんし、あちこちに関係者が訪問しなければ達成できないでしょう。ここで無用なリスクを取らなくて済むよう、活動を継続できるようにする手段の一つが安全管理と言うことになります。

 

より具体的に申し上げるとすれば、進出先の海外事業現場で成し遂げることを先にリストアップし、それぞれをどうやれば安全に達成できるのかを考えるのが安全管理の実務です。事業目的の達成があり、その実現の手段が安全管理ということですね。そして、現時点での治安・政治情勢や安全管理に割ける予算・人員等がどうしても足りないというケースでは事業目的を達成するための代替的手段がないか、検討するという順番がおススメです。

 

 

 

他方で、安全対策の難しいところは人それぞれ許容できる「リスク」が違っている点です。命に代えても達成したい、誰かのために役に立ちたいと思って海外に飛び出していく生き方だってあるでしょう。反対に、死ぬほどのリスクは負えないが、生活のために必要な売り上げを確保するためある程度のリスクは取りたいという考え方もあり得ます。もしくは、海外での予想外のトラブルには遭いたくないので日本国内でできることだけやってその範囲で生活する、という選択肢だって否定はできません。ですので、安全管理措置はどの企業・団体にも一律当てはまるものはありません。それぞれの組織の目的とリスクテークによって、必要なツール(安全対策)は変わってくるのです。

 

 

我々セキュリティコンサルタントがお手伝いできるのは、リスクの客観的な見積もりと、クライアントが許容できる範囲までリスクを低減する対策のアドバイス。あまりに無謀な挑戦や、過剰な身構えを修正するのは我々というよりも取り組みを行われる皆さんです。

無意味にリスクをとることは決して推奨しませんが、皆様それぞれの挑戦に応じた適正なリスクに対応するという考え方をぜひ実践していただきたいと考えています。

 

 

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