アメリカ大統領選挙結果の的中・不的中
アメリカの大統領選挙が終了し、皆さんもご存じの通り、トランプ氏が再選されることが決まりました。日本語メディアでは11月5日の投票日直前まで「接戦による票の数えなおしなども必要となり、結果確定に数日必要かもしれない」といった事前の報道もあったのですが、アメリカ時間の11月6日朝にはトランプ氏の勝利が確定的となり、同日中にハリス氏も敗北宣言を行うほどあっさりと決着がつきました。
選挙人の獲得数ではハリス氏の226に対し、トランプ氏は312ですので接戦ですらなかったという結果だったのではないでしょうか?特に重要とされていた「激戦7州」と呼ばれていた勝敗を左右する7つの州(ネバダ、アリゾナ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア)では全勝となっており、結果だけを見ればトランプ氏の完勝であったと言えるでしょう。トランプ氏を支持しない方々からすれば、憤懣やるかたない、といった状況かもしれませんが、民主主義はより多くの支持を得た側が次の数年間政治的権力を得るという仕組みになっています。選挙は国民(当該地域の住民)による投票によって明確に当選/落選が決まる仕組みです。自分の思った通りの当選者ではなかったとしても結果は結果として受け止める必要があるでしょう。
さて、弊社では8月にハリス氏が急遽対立候補になった時点からトランプ氏の再選をメインシナリオとして、お客様に大統領選挙前後の安全対策について解説していました。8月はハリス氏が最も勢いがあった頃でしたが当時からアメリカやその他海外からの情報を冷静に分析するとどうもトランプ氏が優勢なのではないか、と想定していました。結果的には日本語のメディア情報とは違う分析ではありましたが、選挙が近づくにつれ、各種情勢分析でトランプ氏が追い上げているという趣旨の情報も増え、結果的には弊社シナリオ通りの決着となりました。
ただし、一点注意が必要なのは弊社の予測が的中したのは「トランプ氏が当選する」という点であって、激戦7州すべてをトランプ氏が制する状況は的中していません。特にペンシルベニア州はハリス氏が勝利しそうだ、という分析を行っていたことをあえてここで公表しておきます。
「トランプ氏が当選すると8月の時点から言っていただろう!」
「我々の情報収集、分析はすごいでしょう!」
と言えばいいのになぜこんな不的中の予想を公表するのか。それは当サイトでは特定のイベント結果を的中させることには重きを置いていないからです。丁寧に情報収集を重ね、冷静に分析すれば、少し先の未来はある程度的中させることはできます。ただし、例えばすべての人にインタビューすることは不可能ですし、イベント直前(今回で言えば投票日直前)に予測できなかった事態が発生することだってあります。人智を超えた自然災害が突発的に発生すればそれまでの情報収集や分析がすべて無効になることだってあり得るわけで、我々ごときが的中率を100%にすることは不可能です。
事前に喧伝した予想があたると、「ほら、言った通りだろう!」と自己主張される方も多いのですが、予想が当たり続けるということはまずありません。むしろ予想の的中、不的中を必要以上にアピールするコンサルタントは、それほど質が高いとは言えない、と考えています。質の高いコンサルタントが行うべきは予想しづらい未来の出来事を正確に言い当てる「予言者」ではなく、正確に読めない事態を前にしても複数のシナリオを提示し、そのどれが実現したとしてもクライアントへのダメージを最小化できるような方策を低減できる人のことです。
安全対策に必要なのは複数のシナリオ
少し話は変わりますが、例えば米国大統領選挙のような特定のタイミングで結果が出るイベントについて我々がお客様から多く問いかけられるのは
「どちらが勝つと思いますか?」
「関連した暴動などは起こりますか?」
といった二者択一の質問です。また、選挙以外で言えば、
「この国は今後リスクが高くなりますか?」
「(特定の事件の後)この後世界でどんなことが起こりますか?」
といった未来予測を求められることもしばしばです。こちらが未来を正確に予知することを期待されているような質問を受けることも少なくありません。しかしながら先ほどご説明した通り、いかに優れたアナリスト、コンサルタントでも未来の事象を完璧に見通すことはできないのです。このため上記のような未来予測的な質問には責任をもって断定的な回答をしないように心がけています。他方、なぜその国で想定されるリスクがこれなのか、なぜこの事件の余波が世界各地に及ぶのか、といった背景を説明することは可能です。なぜならこれは既に起こったことや理論の組み合わせだからです。
未来についても過去の延長線上と考えればいくつかのシナリオを想定することはできます。ただし、それらがどの程度の確率で発生するのか、また新しいシナリオが生まれるのか等正確に読み解くのは至難の業。実際にはいくつかのパターンを想定し、それぞれどの程度の割合で発生しそうなのか、またある事象が発生した場合にさらにその後どのような分岐点が存在するのか、を考えていくことで複数のシナリオを想定することが可能になるのです。
何らかリスクイベントが発生した際、結末がわかったように解説する方、絶対にこうなるから俺を信じろ!と主張される方もいらっしゃいますが、セキュリティコンサルタントは占い師や予知能力者ではありません。万が一、皆さんが依頼しているセキュリティコンサルタントがあたかも予言者のように未来の事象について断定的に言及する場合にはその方の情報源や分析の根拠を今一度確認していただくことを推奨します。場合によっては事態の複雑性を理解していないが故に単純化しすぎてしまっている可能性もあるからです。これは上述の通り、的中したという結果オーライな事象を課題にPRする傾向と表裏一体の性質でもありますね。
正確な未来予測ができるとは言えないセキュリティコンサルタントが、なぜ安全に対するアドバイスができるのか、そして一般の方よりも安全度を高める方法を複数提示できるのか?それは正確な未来予測がなくてもできてしまう安全対策のコツを知っているからです。
メインシナリオが外れても被害を被らないようにするのが質の高いセキュリティコンサルティング
セキュリティコンサルタントというと、あたかもスパイのように機密情報をたくさん持っており
いつ
どこで
だれが
どうやって
どんな事件を起こすのか
などがよくわかっているからこそ、安全対策ができると思い込んでおられる方が時々いらっしゃいます。正確に未来予測ができるからこそ、的確な安全対策のアドバイスができるのだろう、と。実際には上記のような情報がわかっているのであれば安全対策のアドバイスなどやっている暇があったら事件が起こらないよう未然に防ぐのが正しい人間というものでしょう。それがわかっていてなお安全対策アドバイスを有料で提供しているのであれば、もう実行犯の一味といっても過言ではありません。
話を元に戻しましょう。
今の複雑な世の中で正確な未来予測ができる人はいません。ただし、起こりうる最悪の状況を想像することはできます。本当に最悪の状況が起こるかどうか、はわからなくても、「頭の体操」はできるはずです。そして、最悪の状況でも場合に関係者の被害を最小化する取り組みを進めることもできるはずです。セキュリティコンサルタントとして皆さんの安全対策をアドバイスする立場に必要なのは、正確な未来予測よりもシナリオの想定とその対応策のイメージです。
安全対策という分野に限ると特殊な能力のように思われがちですが、日頃の企業活動に置き換えて考えてみるとビジネスにおけるリスク管理、シナリオ想定にも似ています。
・取引先の支払いが滞った場合の対応策は?
・景気の急激な落ち込みでも耐えられる財務体質にするには?
・複数の提携企業候補から業務提携先を決定するには?
・突然アクティビストから株主提案が来た場合の防衛策は?
こういった経営上のリスクを想定し対応策を事前に用意することと、海外で発生しうる事態に備えた安全対策を講じることは基本的には同じ。経営会議などで上記のような議論をされる場合には「100%こうなる」といったイチかバチかの前提条件を設定することはないはずです。
取引先がこうなった場合のオプションは1、2、3・・・。景気が悪化した場合の想定として、深刻な影響がある場合、中程度の影響がある場合、影響が軽微だった場合、それぞれ銀行や債権者、株主とどのような対話をするのか、また従業員の雇用はどの程度守れるのか、など複雑なパターン分けをして考えておられるのではないでしょうか?
海外における安全対策の素になるリスクシナリオの検討も基本は同じ。ただ、海外の安全対策においては、皆さんが普段考え慣れていないというだけです。正確な未来予測がないと何もできない、と立ちすくんでいては、危機が現実になったとき太刀打ちできません。また、絶対にこうなるから、こうすべきだ、という「一本足打法」ではその前提が崩れた際に対応ができなくなってしまします。安全管理について言えばどのような事態が起こったとしても、皆さんが守るべき関係者の命や重要な企業資産を守り抜くために頭の体操を行うことが一番大切なのです。
大事なのは面白おかしく予想や予測する人の話を聞くことではありません。最悪に備えるべく、複数のシナリオを予測し、そして対応策を検討することなのです。
この項終わり