日本人がやりがちな「盗ってください」行動

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日本は人のものを盗まない社会

2022年2月、警察庁は令和3年分の「犯罪統計資料」の確定数値を発表しました。この情報に基づけば、日本国内における刑法犯の認知件数は全体で56.8万件となっています。これは令和2年度と比較しても7%以上少なく、戦後最小となっています。認知された犯罪のうち約7割は窃盗犯(すり・ひったくり、自転車盗、万引き、住宅等への侵入盗など)ですが、こちらの件数は約38.1万件となっています。窃盗犯の件数もここ数年は減少傾向です。

過去5年、窃盗犯の認知件数は減少傾向(警察庁統計資料より)

日本の人口はご存知の通り約1億2500万人ですので、窃盗犯の認知件数は10万人あたり305件程度ということになりますね。

 

反対に増えているのは「オレオレ詐欺」や「架空請求」といったいわゆる特殊詐欺事件です。こちらは、物理的な接触を最小限として、現金を振り込ませたり、郵送させることによってお金を盗む犯罪です。平成29年に過去最高の事件数を記録したこの手の犯罪はコロナ禍を経て様々な形で継続されており、令和3年度も14000件以上が発生、被害総額は282億円に上っています。

 

この統計値を見てわかるのは、日本ではいわゆる「泥棒」と聞いてイメージされるような窃盗犯は思っている以上に少ないということです。よくよく皆さんの周囲の状況を確認してみてください。万引きなどが良い例ですが、「盗もう」と思えば、盗めてしまうものはあちこちにありますよね。街中のコーヒーショップに行けば、鞄やスマホ、時には財布で席を確保していることを見かけることも・・。

(注:窃盗は犯罪です。あくまで想像してください、という趣旨です)

 

これだけものを「盗みやすい」状況で、物を盗まれたと訴える人がどんどん減っているという点に日本の特色があります。日本人はみな小さい頃から「人のものを盗んではいけません」ということを繰り返し教え込まれていますし、そもそも盗むというリスクを冒さなくても簡単に買える社会であることも一因でしょう。さらには警察も十分に機能しており、捕まる可能性も高いという認識が浸透していることも抑止力として働いているのかもしれませんね。

 

ちなみに、東京都(警視庁統計)では遺失物として届けられた現金の内75%は持ち主の手元に戻っています。海外ではまずありえない統計値ですが、日本の現実を示す興味深い統計ですのでここで併せてご紹介します。

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海外では日本の常識は通用しない

では、海外ではどうでしょうか?日本と各国の警察でどのような犯罪をどういった種別に分類するのか、またどの時点で統計に算入するか、が異なるため、単純な比較はできませんが、おおよその目安として紹介させていただきます。

 

例えば日本人の方も多く旅行されているスペイン。

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外務省安全HPのスペインページより抜粋

 

こちらの数字によれば、2021年スペインで発生した窃盗事件数は595,397件(三種類の単純合計です)となります。スペインの人口は約4600万人ですので、人口10万人当たり1294件ほどの窃盗事件が発生していることになります。これは実に日本の4倍近い数字ですね。

【参考リンク】スペインに対する日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア各国政府の各国民向けトラベルアドバイスをまとめたページ

 

イラクやアフガニスタンのように、「どう考えても命に危険がある」というイメージが描けないため、安全な国、と思い込んでいる先進国は多くあります。特にヨーロッパや北米の国はそうだと思いますが、実際にはスペイン同様日本の数倍~10倍くらいの一般犯罪(すり・置き引き、ひったくり等)が発生しているという事実は覚えておいたほうがベターです。『先進国だし、街中も清潔だし、インフラも整っているし、日本と同じように過ごせるね』という考えは通用しないのです。

 

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レストランやカフェで無意識にやっている行動に注意

それでは一つ、最近外務省が日本人旅行者向けに注意喚起を行ったアルゼンチンでの置き引き被害事例を紹介しましょう。こちらはアルゼンチンの事例ですが、大変残念なことに、レストランで食事をしている際、自分が目の届かないところに鞄を置いていたところ、パスポートやクレジットカードを盗まれるという被害に遭ってしまいました。

 

 

被害に遭った方はおそらく無意識のうちに日本でやっている通りの行動をとったのではないでしょうか?つまり、レストランの中は誰でも入れるわけではないし、食事の間くらい目が届かないとはいえ椅子の後ろに置いておいても、誰も盗んだりしないだろう、と考えていたように思います。

実際に日本のレストランや喫茶店に入って周囲を見渡してみましょう。

・まずは手荷物を席において注文に・・・、

・ちょっとトイレに行くので、食べかけ・飲みかけのものとスマホをおいて・・・

・スマホや財布を机の上に残してバイキング形式(ビュッフェ)で料理を取りに…

といったシーンはよく見かけますね。(写真イメージです)

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ただ、海外でのこういった行動の結果は外務省からのメールにある通り、大変残念なことになりえます。パスポートの再発行手続きはもちろん、クレジットカードの停止⇒日本での再発行手続きもばかになりません。手持ちの現金がもし鞄にすべて入っていたら予定通りの旅行や出張は絶対にできません。

 

テロや大規模な襲撃はビジネスにも似て、十分な計画とヒト・モノ・カネの手配が必要ですので、いつでもどこでも実行可能ではありません(参照コラム⇒「テロは〇〇〇〇に似ている!?」)。その一方で、目の前に「盗んでください」とばかりにものが放置されていればまったく計画がない人でも盗めてしまうのです。

 

今回被害に遭った方は今後しばらく相当気を付けてご自身の持ち物、貴重品を管理されると思います。ただ、できることなら被害に遭う前から気を付けていただきたかった。まだ被害に遭われていないという皆さんも、日本でついついやってしまいがちな行動が、窃盗犯罪の多い海外では「盗んでください」というメッセージになっていないか、今一度ご確認ください。

 

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