海外で通用しない「焦って買いだめマインド」を更新せよ、海外でこそ事前の継続的ストックが重要

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米が店頭から消える異常事態

2024年8月に入り、日本人の主食である米がスーパー等の店頭から消えるという異常事態が続いています。皆様の中にもあまりにも空になった棚をみて、急いで米を買いにあちこちのお店を回った、購入制限などで思うように米が買えなかったという方もおられるかもしれません。今回、日本人の主食であり、それゆえ備蓄米もたくさんある中で店頭から米が消えたという異常事態の背景にはおおむね以下4つくらいの要因があるようです。

1)宮崎県での地震を発端に南海トラフ警戒情報が発令され、西日本を中心に普段よりも備蓄意識が高まったこと、

2)移動が極めて遅い台風10号の影響で西日本はもちろん、東日本以北でも公共交通・物流が大きく乱れたこと、

3)新米収穫の直前で一般小売用の米の在庫が少なくなりがちな時期こと、

4)上記を受け小売店での値上がりや棚が空になる現象が人々の「焦って買いだめ」行為を加速させたこと、

ただし、飲食店等の業務用の米=プロが使う米が不足してレストランや仕出し屋さんのメニューからライスが消えるという事態は発生していないことを考えれば、米不足は一般消費者向けの小売店に限った現象と理解したほうがよさそうです。加えて農林水産省の発表によれば8月末の時点で備蓄米は100万トン以上あるとのこと。小売店の店頭まで到達していないものの、その気になれば既に商品化された米があることや、既に新米が出回り始めていることなどを踏まえて、政府としては備蓄米の緊急放出よりも価格の安定を重視する方針を発表済みです。

つまり、今ニュース等で報じられている米の不足は4)の影響が大きい、つまり普段よりも焦って買う方が増えすぎたために一時的に物流が追い付かなくなってしまっている、というのが現状ではないかと考えています。

ウェザーニュース社の台風10号これまでの進路と今後の予報

結果的に4)の「焦って買いだめ」が大きく影響しているとは思いますが、そのきっかけを作ったのは1)の地震や2)の台風です。南海トラフ地震への緊急情報が発令されたのは史上初でしたし、台風も上の図にある通り過去数十年間なかった移動ルートであり、いずれも異例中の異例だったことは否めません。他方で、日本で長く住んでいる方にとっては、地震も(特に南海トラフ地震への警戒は近年強く訴えられていました)、台風も「想定外」で片づけるには無防備に過ぎる、と言えないでしょうか?

これまで何度も警告されてきた地震や台風というジャンルでたまたま2つ悪い状況が重なっただけで生活が成り立たなくなる、という暮らし方は望ましくありません。様々なリスクに囲まれて生きている我々からすれば、想定済みのリスク、警戒が必要と周知されているリスクには多少備えすぎと言ってもよいくらいで備えておかなければならないように思います。

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「焦って買いだめ」にメリットはない

もう一つ、本サイトの専門ではありませんが、物流・小売りの観点から「焦って買いだめ」が良くない理由も説明しておきたいと思います。

通常よりも急激に需要が高まる「焦って買いだめ」の社会的デメリットとしては以下が挙げられるでしょう。

・多くの消費者が希望通りに商品が買えない精神的なストレスを感じる

・小売店店頭で欠品が多く発生し、仕入れコスト/在庫保管が上昇する

・物流が乱れ、輸送コストが値上がりするほか、通常とは別の輸送ルート設定も必要となる

・高値での転売を狙う人が登場し、ますます経済的に非効率になる

社会全体として、物品が十分にあるにも関わらず局所的な需給バランスの乱れ(店頭在庫の枯渇)が発生すると短期的に価格が乱れたり、本来不必要な調整コストがかかり不自然な値上がりをしたり、欠品が長引いたりする、というのはコロナ禍初期にマスクやトイレットペーパーでも経験済みです。普段閉店間際以外は商品が大量に並んでいるのが当然、と思っている日本人からすると「欠品している」という光景そのものが相当プレッシャーになるのでしょうか?

合理的に考えれば、上述の通り、「焦って買いだめ」すればするほど局所的な需給バランスを崩す行為に加担することになります。そして自分が欲しい商品の値段が必要以上に上がり、また欠品期間がながくなるわけですから消費者としてまったくもってメリットはありません。デメリットしかないのですがそれでもやってしまうというのが心理的な反応なのでしょうね。確かに危機管理の仕事をしており、こういう事態にはかなり備えているつもりの私も先週近くのスーパーで牛乳がすべてなくなっているのを見ると、「あ、別のお店も回ろうか」と感じたりもしました。結果的には自宅にまだ1本半牛乳があるのを思い出し、同日は買わなかったのですが。

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台風による物流乱れもあり、棚が空になったスーパーの牛乳売り場(筆者撮影)
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正しく、効率的に備えるなら海外でこそストックを持て

さて、前置きが長くなりすぎましたが、本題はここからです。「焦って買いだめ」は日本でも望ましい行為ではないですし、デメリットばかりではあるのですが日本以上にNGなのは海外での同様の行為です。海外において、特に開発途上国においては物流が乱れると日本とは比べ物にならないくらい値上がり、欠品の影響は長引きます。数か月単位で商品が入ってこない、ということも珍しい事象とは言えないくらいです。加えて、災害によって寸断された道路や生活インフラ、公共交通機関の復旧スピードを比較した際、日本は世界の中でトップクラスです。物流は道路や交通機関が機能しなければ回復しませんので、海外において、日本と同等の物流回復スピードを期待するのはそもそも無理筋なのです。

 

また、日本では品ぞろえが薄くなったのを見て、慌てて自分もその商品を買う、という方法もある程度通用しますが物流や在庫調整機能が十分とは言えない海外では欠品したままその商品が入荷せず、買うチャンスが来ないというケースだってあり得ます。また、一般的に海外に駐在されている方々は現地の方と比して、複数の店舗に出入りして物資の調達ルートを確保しているとは言い切れません。たいていはなじみのある比較的清潔なお店、1か所か2か所で買い物を済ませてしまうことが多いのではないでしょうか。このため、日本と比べてあちこちのお店を回りながら「焦って買いだめ」するという手法は現実的ではないという事情もあります。

さらにはよほどの長期駐在者でない限りは

 

こうしたことから、当サイトでは繰り返し海外でも飲食料品や生活必需品の買い置きを普段から継続してください、とお伝えしています。海外では日本以上になにか突発的な事態があってからでは遅いのです。日本と比べて買い置きのコストは高いかもしれません。飲料水や米・小麦を買い置きしておくことはスペース的にも負担が生じるのも事実です。しかしながら、命をつなぐ物資がないがゆえに生活や仕事に極めて深刻な影響が出るよりはマシでしょう。

突然やってくる新たな感染症にも、大地震にも、急な大規模デモで都市が封鎖されても、大停電等で商品製造が止まっても大丈夫なようにする方法が一つだけあります。それは日頃からご自宅や事業拠点に飲食料品を少なくとも1~2週間分キープ(買い置き)しておくこと。知識としては知っておられる方も多いですが、実践されている方はまだまだ少ないのが現実。まして海外でここまで取り組んでいる企業・団体はかなりレアです。ただ、日常的に買い置きをしておけば、万が一突発的なリスク要因の表面化があった場合に多くの方が「焦って買いだめ」を始めても、余裕をもって微調整の買い物をすればよいだけです。

 

災害の注意喚起が届いてから「焦って買いだめ」する

スーパーやコンビニの商品がなくなってきたので「焦って買いだめ」する

本社や外務省から注意喚起があったので「焦って買いだめ」する

 

という考え方、行動は卒業しましょう。海外の厳しい事業現場で大切にすべきは、こうしたマインドセットをより適切な形にアップデートし、皆さんの生活と事業継続力を高める工夫です。備えあれば憂いなし、という言葉は確実に真理です。

この項終わり