予防措置×被害軽減措置で「リスク」はかなり下げられる
前回のコラムで、安全対策の軸は予防措置と被害軽減措置の二つです、ということをお伝えしました。今回は簡単ではありますが、予防措置と被害軽減措置の具体的な事例をお伝えします。
予防措置はRisk Matrixでは特定のリスクの発生頻度を下に下げるための方法です。また、被害軽減措置は横軸の「被害の影響度」を左側(より影響が小さくなる)にシフトさせるための方法です。
上の表で考えてみましょう。
何の対策も講じなければ従業員が死傷しかねないテロの巻き添え被害リスクは5段階で上から2番目のHighとなっています。発生頻度が「中程度(Moderately Likely)」で被害の影響度は上から二番目の「深刻 (Severe)」となっています。
もし、予防措置としてテロが起こりやすい場所から事務所を移転させることができれば、巻き添え被害に遭う確率を下げることができます。「中程度(Moderately Likely)」⇒「まれ(Unlikely)」へのコントロールを行うことができるとも言い換えられますね。
加えて、万が一事務所近傍でテロが発生した場合でも、ガラスが飛び散らないようにする、窓の近くに従業員を座らせないようにする、爆風が直接壁やガラスに当たらないよう防風壁を設置する、といった対応を講じれば、被害の影響度も下げることができます。周囲の状況や予算にもよりますが、「深刻(Severe)」⇒「軽微(Minor)」くらいまではコントロールが可能であることが多いです。
このように予防措置と被害軽減措置の両方を講じることにより、当初総合的なリスク評価が「High」だったものを、5段階で下から2番目の「Low」にまで引き下げることができるのです。まったく何も対策を講じずに脅威にさらされるままにしている状態と比べれば、皆さんへの「リスク」が低減されていることを論理だてて説明できますよね。
安全対策の「肝」は予防措置(Prevention)
安全対策、それもテロや襲撃への備えというと、真っ先に強固な防風壁や防弾チョッキのような施設・装備をイメージされるかもしれません。しかしながら、そうした対策は
「最悪の事態に巻き込まれてしまった」
という前提で用意するものです。
弊社では、安全対策として最も重要なのは特殊な施設や装備などを使わなくて済むように、つまりテロや襲撃等の事態に遭遇しないために準備することだと考えています。具体的には
テロや襲撃が起こりそうな場所・時間帯を避けるよう指示を徹底する
どうしても危ないなら、関係者を自宅やホテルで待機させる
襲撃犯が攻撃をあきらめるような対策を講じる
といった対策がそもそも被害に遭う確率を下げる対策となります。
通常イメージしづらいですが、施設や装備を整えるよりも、圧倒的に安上がりで、日ごろからのリスクを下げることができることの多い手段、それが予防措置(Prevention)です。予防措置がしっかりしていれば、Risk Matrix上で総合的なリスク評価は下に下がります。赤ではなく橙に、橙ではなく黄色に、黄色ではなく緑に、リスク評価を下げる効果があることをご理解いただければと思います。
イメージしやすい被害軽減措置(Mitigation)も適切に
予防措置をしっかり講じることで被害の発生頻度は下げられます。しかしながら、どれだけ入念に予防措置を講じたとしても、今の時代、何が起こるかわかりません。万が一予防しきれず、事件や事故、自然災害等のリスク要因に巻き込まれた場合には予防措置だけでは不十分です。
万が一被害が発生するような事案に巻き込まれた際、あるとよいのは、被害を多少なりとも軽くしてくれる施設や装備、もしくは被害を拡大させないための行動です。
自動車であれば事故が起こらないに越したことはないが、起こってしまった時に乗っている人の死亡をできる限り防ごう、ということでエアバッグが搭載されています。
また、安全のためには地震が来ないことが一番ですが、日本ではどうしても地震が避けて通れないため、免震・制震装置を備えたり、ライフラインが途絶えても数日暮らせるよう飲食物を備蓄したりしていますね。直接被害を低減する方策は対策したという事実が目に見えやすく、皆さんもイメージしやすいでしょう。
具体的に海外での安全管理に役に立ちそうな被害軽減措置としては例えば以下のような手段があります。
防弾車の使用
安全対策設備の設置(防弾ガラス・ガラス飛散防止フィルム・防護壁等)
誘拐・襲撃対策トレーニング
こうした目に見える対策は一定の資金が必要ですが、直接被害を下げるための工夫ばかりですので、やはり効果はてきめん。万が一のことを考えれば、皆さんの活動実態に即した、被害軽減措置を真剣に検討し、実践することをおススメします。
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