開発途上国で子育てをされる方へ~「不便」だからこそ~

この記事のURLをコピーする

海外駐在先によるイメージの違い

これまで、海外赴任と言えば、アメリカのニューヨークやフランスのパリ、イギリスのロンドンといった先進国の首都への駐在が多かったと思います。そうした国はいわゆる先進国ですので、現地の文化や事情はそれぞれあるとは言え、日本で暮らす際とそん色のない衣食住が期待できました。加えて生活の質に直結するインフラ設備や衛生環境、教育環境等も既に存在しているという前提で赴任できました。

日本に残ることになるご両親や結婚相手、友人らからも海外赴任について祝福されたり、羨ましがられたりすることはあっても、

 

「そんなところに行って大丈夫?」

 

という言葉をかけられることはなかったのではないでしょうか?日本よりも快適な国はそれほど多くないにも関わらず、先進国への海外駐在は好ましいもの、というイメージが強いようです。

 

しかしながら、前回お伝えしたように、今後企業が進出するのはアメリカやフランス、イギリスばかりではありません。ベトナムであったり、インドであったり、タンザニアやケニアのようなアフリカの国だったりということが考えられます。そうです。これまでご説明してきたような開発途上国への進出が増えるのです。

 

カンボジア首都プノンペンのマーケット(参考映像)

 

開発途上国に進出する日本企業が増えるこれからの時代、開発途上国に働き盛りかつ子育て世代の皆さんが派遣される可能性も高くなるということですよね。では、そうした開発途上国への赴任が決まった際、皆さんはご家族との関係をどう考えますか?

 

 どんなところかわからないので家族は連れて行けない

 家族とは離れ離れになりたくないけど、生活環境が整うか心配

 安全上家族を連れていくには不安が大きい

 自分や配偶者の親の理解がなかなか得られない

 

といった点で出発前から大騒ぎになるかもしれません。

 

「開発途上国に赴任するくらいなら会社を退職します!」

 

と言い切れる方は別として、辞令に従って海外赴任する方は否応なくご家族との過ごし方を見つめなおすことになるのではないでしょうか?

 

海外安全メールマガジン登録

開発途上国での海外駐在=単身赴任なのか

 

開発途上国に限らず、海外に駐在するということは日本を拠点とする家族にとって非常に大きなライフイベントです。もちろんご家庭の事情もありますし、駐在先の状況も踏まえて最後は皆さんのご判断ではありますが、当サイトでは開発途上国での家族生活も悪くないですよと考えています。

 

結論として単身赴任を選択し、ご家族が離れ離れで過ごすこともありえるとは思いますが少なくとも、「よくわからないし、心配だから」という理由だけでご家族揃っての時間を犠牲にして欲しくはありません。ご家族揃っての時間、お子さんの成長を見守る機会は一生で一度きり。本当にかけがえのないタイミングをお父さんもしくはお母さん不在で過ごしてしまってよいでしょうか?

 

 

開発途上国での生活は大変という印象が強いですが、逆に不自由を感じることなく生活できる日本よりも家族のきずなを強めることができるチャンスです。日本なら冷暖房の効いた快適な個室を家族全員が持ち、インターネットやゲームをしながら別々に過ごすこともできます。よほどの異常気象や自然災害などがない限りは水も電気もガスもインターネットも使えない、という状況にはならないでしょう。公共交通機関も十分に発達していますし、子供や若い女性がタクシーに一人で乗っても安全ですので、奥さんやお子さんが一人で外出する際も苦労しません。

 

逆に開発途上国では水や電気、ガスの供給がいろんな理由で止まることがあります。また、「電車に乗ったことがない」「地下鉄って何?」という国だってあります。移動についていえば、利便性はもちろん、治安の観点からも子供や若い女性が移動する際に注意が必要な国もあります。

(ちなみに、周囲の方がうらやむようなアメリカやイギリス、フランスでも日本と同じレベルの快適さはまず存在していません。公共交通機関はよく遅れますし、電気やガス、水道の不具合も想像以上によく発生しています。欧米でのテロ事件や銃乱射事件も増えてきていますので、治安がいいとは言い切れません。)

 

 

そういった、不自由な生活が前提となれば、おのずと「職住接近」が当然の選択肢。通勤時間が苦痛になることはまずありません。また、現地採用の外国人は日本のように「サービス残業」しようという考えがないことも多いですので、必然的に駐在して働く方も(その気になれば)勤務時間は短縮され家族と過ごせる時間も日本に比べて増えるでしょう。

 

 

さらに、日本と比べて生活インフラが整っていないということは、家族内や駐在する日本人同士助け合うことで、生活が楽になる実感が得られる環境であるとも言えます。お隣がどんな人なのか、家族が何をやっているのか知らない、という生活ではなく、人と人とのつながりの意味合いを確認し、助け合って生きるという経験は日本ではなかなかできるものではありません。

 

開発途上国において、家族で生活するということは不便な世界で助け合いながら暮らすということでもあります。不便だからこそ、日本以上にお子さんの成長を密に見守ることができる。不便だからこそ、駐在期間の数年間を乗り切った経験が家族の宝物になる。日本と同じ快適さはありませんが、その分家族の絆が強くなるというメリットもあるのではないでしょうか?

 

開発途上国では家族揃って日本のようには暮らせないから単身赴任、というのも一つの考え方ではあります。が、日本のようには暮らせないからこそ、家族揃って力を合わせて暮らそう、絆を深めながら暮らそう、という考え方もできるように思うのです。これは絵空事ではなく、過去に日本でも観察された現象なのです。

 

海外安全セミナー

自然災害発生後に家族や友人との絆が強まる傾向が

 

開発途上国では日本と違っていつでも快適な暮らしができるとは限りません。しかしながら、日本でもインフラが大きく損壊し、生活基盤が乱れたことがあります。そう、大規模な自然災害のたびに、被災地域では日曜生活が根こそぎ奪われています。

 

そんな時、日本人はどのように過ごしてきたのでしょうか?

 

例えば2011年東日本大震災の後に行われた調査では「家族や友人との『絆』意識を再構築」した、と分析されています。普段当たり前のように享受してきた日本国内の便利さ。安全な飲食物がいつでも手に入り、命や財産を奪われる心配をせずに安心して生活できる環境に感謝する機会も普段ほとんどありません。しかしながら、ひとたび大災害が発生し、そんな日常が「当たり前」ではなかったと気づいた時、本当に頼りになる人は何なのか、人生で大切にしたいものがなんなのか、はっきりと認識できるようです。

 

2018年9月北海道での大規模地震後に全道で停電が発生。日本ではまれにみる長期間の停電に見舞われ、家族や仲間との助け合いが重要に。(日経新聞HPより)

 

『ピンチはチャンス』という言葉があります。人生において、これはまずい!というシチュエーションになることがしばしばありますね。しかしながら、そういった窮地を乗り越える経験こそが自身を成長させる最大の原動力になるという意味合いでしょう。

 

この言葉はスポーツのシーンでもよく使われますし、ビジネスや経営の分野でもこうした言葉が使われるケースをよく見ます。これまで、「成功者」と呼ばれている人で、生まれてこの方順風満帆、一つも失敗したことがない、ピンチに陥ったことがない、という方はいません。成功している人ほど数多くのピンチを経験し、そしてピンチを乗り越え、そのたびに大きく成長しているのではないでしょうか?

 

家族にとっても『ピンチはチャンス』という言葉が当てはまるように思います。開発途上国への赴任辞令は喜んでばかりもいられないかもしれません。家族全体にとってのピンチ、というご家庭だってあってもおかしくないでしょう。しかしながら、開発途上国への赴任辞令が100%「ピンチ」「不幸」とは言い切れません。日本とは違う環境で、家族がより緊密にふれあい、助け合う生活ができるようになると考えればそれは「チャンス」「幸せの入り口」なのではないでしょうか。

 

もし開発途上国にご家族そろって駐在されるという決断をされたのであれば、駐在期間を「チャンス」と捉え、現地での生活を家族の宝物にしていただきたいと願っています。また、開発途上国への赴任を迷っているご家族がいらっしゃるのであれば、次回以降のコラムご説明する様々な基礎知識や工夫を参考に、ぜひご家族揃っての赴任を検討いただきたいな、と思います。

 

 

 

この項終わり