開発途上国で子育てをされる方へ~予防接種は計画的に~

この記事のURLをコピーする

開発途上国に出発する際には必要な予防接種を打とう

日本国内では赤ちゃんの頃から、小学生前後まで「定期予防接種」という制度が整っています。地区町村からの案内や小学校からのお知らせに従って予防接種を受けることで、子供たちが日本で必要な免疫を得られるように考えられた制度です。生まれた世代によって多少の違いはありますが、日本で生まれ育った方はほぼ間違いなく、日本で流行している感染症に備えた免疫を持っているはず。

予防接種を受ければその人自身が対象の感染症を発症しにくくなる、もしくは重篤な症状が出にくくなります。万が一ある人が感染し、発症したとしても、周囲のほとんどの方に免疫があれば、感染は拡大しません。原則として日本に住むすべての人が予防接種を受けることで、個人としても集団としても感染症の流行にブレーキをかけることができるというメリットがあります。だからこそ日本では毎年流行が変わるインフルエンザを除き、ほぼすべての感染症で大規模な感染(パンデミック)が発生しないのですね。

 

一方で、開発途上国では日本と違い、感染症が蔓延していることがままあります。これは衛生状態が悪いという環境要因に加えて、定期予防接種の仕組みがなく、多くの国民が免疫を有していないという社会的な要因もあるためです。開発途上国で長期間生活するということは、そういった感染症から身を守りながら生き延びるということでもあります。必ず駐在先の国・地域に応じて必要な予防接種を出発前に受けてからご出発いただくようおススメします。

 

 

 「日本で十分に予防接種を受けているから大丈夫ではないか?」

 

 

いやいや、日本国内で行われている予防接種はあくまで日本で流行しうる感染症に対して、免疫が得られるように制度が設計されています。つまり、皆さんが駐在される国・地域で流行している感染症でも、日本で根絶されてしまった病気の免疫は皆さんお持ちでない可能性が高いのです。

 

 

海外安全メールマガジン登録

日本では気にもしない。でも海外では・・・?

日本では感染の危険がほとんどないにも関わらず世界各国ではあちこちに感染の危険が潜んでいる、そんな病気は多々あります。日本ではほとんど発症しないので、話題にもならないのですが、その分日本人が無防備であるという例がいくつかあります。最も極端な例を一つだけ。それは狂犬病の脅威です。

 

イメージ画像(photo by pexcels

 

日本では狂犬病ウイルスは根絶されており、1957年以降国内での感染例はありません。「平成最後」を超えて「令和」時代に入った2019年から見れば遥か昔に根絶されたと理解いただいてよいでしょう。ですので、日本国内で犬に噛まれた時、真っ先に狂犬病を心配する方はいないはずです。狂犬病の可能性を思い描くことがなくてもその方を「無知だ」とは言えない、これが日本の(ありがたい)実態ですね。

 

 

ただ、この狂犬病は世界全体でみると全く根絶されていません。そして、この狂犬病はその性質上発症してしまうとほぼ治療方法はなく、致死率は100%です。日本では見たことも聞いたこともない、という人がいても何ら問題ないのですが、世界各地で今なお狂犬病による死者が出ていることは事実です。つまり、日本では

 

「犬に噛まれて狂犬病が怖い〰!」

 

と大騒ぎすることは過剰反応と言われても仕方ありません。しかしながら狂犬病発生国ではむしろ狂犬病を警戒しないなんてありえない、ということになりますね。

 

厚生労働省発表の狂犬病発生状況

 

この一年ほどの間にもモロッコで犬に噛まれたイギリス人男性が帰国後狂犬病を発症して死亡した事例や日本人がミャンマーで犬に噛まれたものの適切な事後処置で危険を免れた事例が報告されています。

 

この生死の分かれ目は自分の国で犬に噛まれてもそのままでよいという「常識」を旅行先でも通用すると考えてしまっているかどうかです。より正確に言えば海外に駐在する前に、狂犬病の予防接種を受ける必要があると知っているか、また犬に噛まれたらすぐ病院で洗浄とワクチン接種が必要だと知ってるかどうか、です。

 

海外安全セミナー

まずは駐在先で必要な予防接種を調べよう

 

開発途上国に駐在が決まった場合、パスポートやビザ、引っ越し作業といった移動そのものが先に気になると思います。こうした手続きは終わらなければそもそも海外に行けませんので、準備不足のまま開発途上国についてしまった、ということはまずありえません。しかし、逆に言えばこうした移動に関する準備が整ってしまうと、その他の分野で準備不足のまま現地生活が始まるということでもあります。

 

日本で一般的な定期予防接種で免疫が得られない病気が蔓延している地域は世界各地に存在しています。一つ一つの病気については次回以降詳しく見ていきますが、まずは厚生労働省の検疫所HP(FORTH)で、渡航先の感染症流行情報をチェックしてみましょう。

 

同じ検疫所のHPで駐在される国・地域でどのような予防接種が必要かも確認ができます。黄熱や狂犬病、肝炎関連は子供の頃の定期予防接種を受けていない可能性もありますので特にご注意下さい。

 

 

予防接種のスケジュール計画方法やそれぞれの病気の特徴や予防法については次回以降にお伝えします。が、この項最後にお伝えしたいことが一つ。ただでさえ忙しい赴任準備中、どのワクチンをいつ、どこで、何回接種したのか、を覚えておけるでしょうか?

 

赤ちゃんから幼児の頃受ける予防接種はご両親が持っている母子手帳にすべて記録されるようになっています。しかし、小学生以上になるとそういった記録帳をお持ちでない方も多いのではないでしょうか?赴任先の国・地域で定められたワクチン接種の種類と回数が日本のそれとは異なる場合もありますので、どのワクチンを何回接種したか、は紙で正確に記録しておくことがおススメです。その際には英語と日本語両方で記録できるシートを用意しておくと、万が一現地で医療機関にかかった際、役に立つでしょう。

 

また、人間の免疫の仕組み上、ワクチン接種は接種してすぐに効果が表れるものではありません。何度かの追加接種を行うことではじめて病気を防ぐことができるようになるワクチンもあります。途上国への出発まではあわただしい時間が過ぎていきます。それぞれのワクチンをいつ、何度接種する必要があるのか、どのワクチンとどのワクチンは同時に接種できるのか/できないのか、も含めて計画的に検討されることをおススメします。

 

 

このページを見ていただいた皆様には以下のリンクから無料で当サイトが作成した予防接種記録シートをダウンロードいただけます。