「完璧な警備体制」という落とし穴

この記事のURLをコピーする

「完璧な警備体制」よりも現実的な警備計画を

 

ご説明してきたとおり、一般の企業・団体にとってトランプ大統領並みの「完璧な警備体制」は実現不可能なものです。もし実現しようとすれば、警備に関係する直接的な経費や関係の人件費が事業経費を大幅に超過します。このため、経営陣が安易に「完璧で、最高の警備体制を構築せよ」と命じることはむしろ逆効果とすら言えるかもしれません。ただし、たとえ最高ではなくとも、極めて大切な自社・自団体の関係者の命や海外資産を守ることを放棄してはいけないのです。

 

大切なのは「完璧な警備体制」を構築することではありません。テロや重大犯罪に巻き込まれる可能性はゼロにできないとしても、また最悪の場合人命が失われる可能性も否定できないとしても、実践的で現実的、そしてまた中長期的に持続可能な安全対策を検討することの方が大事なのです。

 

それは、25000人規模の警官を動員することではありません。自社・自団体の関係者を守るために現地住民の行動を制限することでもありません。むしろ、現地の事情を踏まえつつ、行動の工夫や関係者個人個人の意識改革といったできる限りヒト・モノ・カネを動かさなくて済む安全対策体制を構築したほうがよいのではないでしょうか?

 

大きなテロがほとんど発生していない日本ではテロへの備えはなかなか進んでいません。他方で、過去に何度も甚大な被害を受けているだけに自然災害への備えは世界でもトップレベル。自然災害への対策のためならヒト・モノ・カネをどんどんつぎ込めるという状況ではないにも関わらず、世界的に備えがしっかりしているのはなぜでしょうか?

 

例えば、幼稚園や小学校のころからの定期的な防災訓練。

例えば、各家庭や自治体、オフィスビル等での飲食料品、生活必需品の備蓄。

例えば、避難場所の明確化やリスクマップの作成徹底。

 

大掛かりな投資を伴う、耐震工事や防潮堤などももちろん建設されてはいますが、上記のような少しの工夫、少しのお金で十分対応できることをないがしろにしないからこそ、万が一の際被害が多少なりとも軽くなっているのではないでしょうか。そして、こうしたお金をかけない工夫で何人もの命が救われているようにも思います。

 

 

安全対策だけを最高レベルにすることはできます。しかしながら、中長期的に海外での活動を継続するためには、安全対策だけにヒト・モノ・カネをつぎ込む「完璧な警備体制」では意味がありません。皆さんの会社、皆さんの団体が世界各地で実際に行っている事業活動を継続するために必要なのは実践的で持続可能な安全対策です。「完璧な警備体制」という言葉は使い勝手がよいのですが、そこを目指せば目指すほど、海外事業展開の邪魔をしてしまうこともある、と我々は考えています。

 

この項終わり