海外旅行保険に入らない渡航者の想像を絶する末路
近年の海外旅行市場は、コロナ禍による大きな落ち込みを経て、着実な回復傾向を示しています。円安や燃油サーチャージの高騰といった逆風はあるものの、夏休みや大型連休を利用して海外へと向かう日本人は少なくありません。実際、日本政府観光局(JNTO)が発表した統計によれば、2026年5月の日本人出国者数(推計値)は前年比4.7%増の112万7400人を記録しました。これは新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と比較すると約8割(21.6%減)の水準に留まってはいますが、ここ数年で渡航需要が大きく持ち直していることが伺えます。

しかし、こうした渡航者の増加に伴い、懸念される事態も浮き彫りになっています。それが「海外旅行保険に加入しないまま出国する渡航者」の存在です。近年、各地の在外公館(大使館・領事館)などからは、保険未加入の日本人が現地で深刻なトラブルや困窮に巻き込まれる事例が相次いで報告されています。
海外における医療事情や治安情勢は、日本の「常識」が一切通用しません。特に医療費に関しては、救急搬送だけで数十万円、入院費用は1日あたり10万〜30万円、さらに手術を要する場合は100万〜500万円に達することも珍しくありません。
保険未加入の旅行者にとって、これらは一瞬にして経済的破綻を招く金額です。さらに深刻なのは、海外の多くの医療機関では「支払い能力の証明(クレジットカードの提示や保険会社の保証)」がなされない限り、治療そのものが開始されない国や地域があるという点です。救急搬送されたものの処置が保留され、日本国内の家族や保証人と連絡がつき、支払いの目処が立つまでベッドの上で待たされるといった痛ましい事例も現実に起きています。こうした事態は、渡航者本人だけでなく、突如として巨額の費用工面を迫られる日本の家族にも極めて重い負担を強いることになります。
このような状況に陥った際、現地の日本大使館や領事館に救済を求めるケースが見られますが、各国の大使館や領事館にはできること、できないことがあります。具体的にはこちらのコラム(緊急事態発生時 日本大使館/総領事館ができること・できないこと)を参考にしていただきたいのですが、現地の日本政府公館が渡航者のプライベートな生活費を貸し付けたり、医療費や帰国費用を肩代わりしたりすることは絶対にできません。最終的には、どれほど時間がかかろうとも、本人や日本の家族が自力で費用を工面するほかないのが冷徹な現実です。
これは盗難や紛失といった治安トラブルでも同様です。パスポートや所持金を丸ごと盗まれた際、保険に未加入で手元資金が完全に枯渇していると、再発行の手続き費用や現地での移動費すら支払えず、手続きが完全にストップしてしまいます。仮にパスポートが再発行されたとしても、日本への航空券を購入する手段がなく、現地で身動きが取れなくなる事案も存在します。これらのケースは、本人の不注意というよりも、「保険未加入」という防衛策の欠如が致命傷となっているのです。
当サイトでは海外でトラブルに遭わないための様々なノウハウ、工夫をお伝えしてはいますが、犯罪被害や交通事故被害、あるいはテロの巻き添え、そしてご自身の体調面でのトラブルなど、単なる「運の悪さ」ではなく、一定の確率で必ず起こり得る「リスク」をゼロにすることはできません。保険に加入せずに渡航することは、シートベルトを締めずに高速道路を走行するようなものであり、極めて危うい行為と言わざるを得ません。海外における安全対策の基本は、「常に最悪の事態を想定し、事前の備えを徹底すること」にあります。その上で、最後の最後、どうしても防ぎきれなかった被害を金銭的に補償し損害を最小限にするためのツールが海外旅行保険です。保険を持たない渡航者が現地で直面する現実は、想像を絶するほど過酷であり、決して他人事ではありません。自分自身と日本の家族を守るためにも、万全の備えを持って出国することを今改めてお伝えさせてください。
日本政府外務省が海外旅行保険加入を強く勧めている
こうした「保険未加入のまま海外で立ち往生する日本人」が増えている状況を踏まえ、外務省は近年、海外旅行保険への加入を繰り返し強く呼びかけています。特に今年は、在モンゴル日本大使館が発した二つの連続する注意喚起が象徴的でした。どんな注意喚起があったか順番にお示ししましょう。

まず6月15日の注意喚起です。この事例では日本で一般的に販売されている乗馬体験付きのモンゴルツアーに参加されていたと思われる日本人の方の事故事例です。日本人の方が乗っていた馬が驚いて突然動き出し、その拍子に落馬してしまった方が顔を強く打って鼻骨を骨折してしまったとのこと。具体的に被害に遭われた方に乗馬経験があったのか、どの程度体力や反射神経があったのかはわかりませんが、一般論として馬に乗る時に落馬や馬に蹴られるなどの危険性はあります。単に街中を歩くよりもリスクがある行為ですので、保険加入は必須と言えるアクティビティでしょう。

そして、上記の落馬事故の注意喚起から3週間後、同じ在モンゴル日本国大使館から「保険加入の勧め」という案内が発出されました。大使館や総領事館がこの手の注意喚起を発する背景を推測すると(あくまで当サイトの推測ではありますが)直近落馬事故等で怪我をされた方やモンゴル国内を旅行中に急病で緊急移送が必要になった日本人の方で十分な補償内容の海外旅行保険に加入していなかった事例があったと思われます。重要なテーマですので画像での引用だけでなく、文字でも以下にモンゴル大使館の注意喚起をコピーしますので今一度ご確認ください。
・モンゴルでは、症状やけがの程度によっては、現地で十分な治療を受けることが困難となり、日本または第三国への緊急移送が必要となる場合があります。このような移送には、航空機の手配、医療スタッフの同行、医療機材の準備等が必要となり、多額の費用が発生することがあります。
・保険に加入していない場合、これらの費用を自己負担しなければならず、本人及び御家族に大きな経済的負担が生じるおそれがあります。また、保険に加入していても、補償額や補償範囲が十分でない場合には、必要な支援を受けられないこともあります。
・渡航前または滞在中に、保険の加入状況、補償内容、緊急移送費用の補償の有無、緊急時の連絡先等を改めて確認してください。また、クレジットカードの付帯保険についてもご確認ください。
・万一の事態に備え、御自身と御家族を守るため、十分な補償内容の保険への加入をお願いいたします。
モンゴルでの事案が象徴するように、保険未加入のまま海外に渡航することは、本人だけでなく、ご家族や関係者にも大きな負担を強いる可能性があります。外務省は厳に世界各地で日本人が治療を受けられない、支援者が現地に駆け付けられない、といった実際に発生している困難な実態を踏まえて注意喚起を行っているのです。モンゴルだけではなく、全世界向けの一般的な注意喚起である「夏休み等を利用して海外に渡航される方への注意喚起」でも、海外旅行保険への加入が強く求められています。また、こうした直近の具体的なトラブルが発生する前から外務省の海外安全ホームページでは「海外旅行保険加入のすすめ」と題した個別具体的なアドバイスのページが用意されています。
外務省は国の機関ですので海外旅行保険が売れてもなんら利益は得られません。それでも日本人の安全を守る立場にいる外務省が公式のホームページやメールで繰り返し海外旅行保険への加入を呼び掛けているのはそれだけにっちもさっちもいかない日本人が大使館や領事館に相談にきているのだ、という点を想像してください。皆さんが海外に渡航される場合、適切な海外旅行保険はあったらいい、というオプションではなく、必ず加入すべきものです。
日本人の海外治療・救援トラブル実例
海外旅行保険の必要性は、外務省の注意喚起だけではなく、保険会社の現場対応からも明確に読み取れます。
保険会社に話を聞くと、海外での日本人のトラブルは年々多様化しており、海外旅行専用の保険なしには対応できない事案が増えているといいます。医療費の高騰だけでなく、ご家族や友人が現地に駆け付ける費用、後遺障害や加害者になったケースでの賠償責任など、海外旅行保険がカバーする領域は広く、ちょっとした盗難・紛失や比較的定額の医療保障に留まるクレジットカードの付帯保険だけでは対応しきれないものばかりです。ここでは、実際に保険会社が対応した事例をいくつか紹介しながら、海外旅行保険が最後の砦として必要である理由を具体的に見ていきます。
まず、最も多いのは医療関連のトラブルです。海外では、救急搬送や入院治療の費用が日本の常識を大きく超えます。欧米や中東、アジアの都市部では、救急搬送だけで数十万円、入院は1日あたり10万円から30万円、手術は100万円から500万円に達することも珍しくありません。保険会社によると、こうした高額請求に直面した日本人の多くが「まさかここまで高いとは思わなかった」と口を揃えるといいます。しかし、医療費の高さは国際的には常識であり、むしろ「日本人の常識は世界の非常識」といっても過言ではありません。日本の感覚で保険未加入のまま渡航することは雪山にサンダル・Tシャツ・短パンで登るようなもの。
さらに深刻なのは、支払い能力を証明できないと治療が開始されない国が存在するという点です。日本では「まず治療、支払いは後から」という文化が根付いていますが、海外では「支払い能力の証明」が治療の前提となることが多く、保証人がいない場合は救急搬送後に処置が止まり、ベッドの上で待たされる事例も報告されています。保険会社は、こうした事態を防ぐために「キャッシュレス治療」を提供していますが、これは専用の海外旅行保険に加入している場合に限られます。クレジットカード付帯保険ではキャッシュレス治療が使えないケースも多く、結果として「保険があると思っていたが使えなかった」という事態が生じます。
保険会社が実際に対応した事例を、個人が特定されない範囲で紹介します。いずれも「海外では医療費が想像を超える」という事実を示す典型例です。
事例①:アメリカ滞在中自身に過失のない追突事故に遭い、重傷で長期入院
アメリカで自動車事故に巻き込まれた方の事例です。ご自身にはなにも落ち度はなかったようですが乗車中に追突事故に遭い、頭部や胸部、骨盤など複数箇所に重傷を負いました。数週間にわたる入院と帰国後のリハビリが必要となり、治療費・搬送費・各種手続き費用を合わせた保険金支払額は数千万円規模に達しました。 特にアメリカでは、救急搬送から集中治療室の利用まですべてが高額であり、保険未加入の場合支払い不能に陥ることも危惧されます。
事例②:ハワイで歩行中にバスに轢かれる事故、家族の渡航費も含め高額化
大好きな方も多い観光地ハワイ。治安上はアメリカ本土よりも相対的には安全であり、日本人向けのリゾートホテルも多数あり、今でも人気は衰えていません。しかしそんな土地柄でも油断はできません。
ハワイの路上を歩行中に車両にはねられ、入院と手術が必要になった事例では、10日以上の入院治療費に加え、家族が現地に駆け付けるための渡航費・滞在費も保険の対象となりました。結果として、総額は1000万円を超える水準となりました。 観光地であっても医療費は高額であり、事故が起きた場合の負担は想像を超えます。家族が現地に向かう必要が生じるケースでは、費用はさらに膨らみます。
事例③:ヨルダン遺跡観光中の転倒事故
映画インディー・ジョーンズにも登場するヨルダンの中東地域の遺跡を観光中に転倒し骨折した事例もあります。壮大な古代遺跡を巡るツアーは高齢の方も含めて多数が参加されていますが、その性質上石でできた整備されていない段差を登ったり下りたりする必要があります。こうした場所で転倒してしまう事例も少なくはありません。
そして遺跡周辺には最新鋭の設備が整った医療設備はありませんので、怪我をしてしまうと最寄りの大都市であるアカバあるいは首都アンマンの病院への転院も想定されます。過去の事例の一つでは入院・手術・転院費用、さらに家族の渡航費などを含め保険金支払額が数百万円規模に達した例もあるそうです。珍しい観光地を巡る方も増えてきていますが、地域によっては医療設備が限られており、転院が必要になることで費用が一気に高額化する点には注意が必要です。
事例④:オーストラリアエアーズロック(ウルル)での転倒事故、ヘリ搬送等で費用が跳ね上がる
オーストラリアも人気の観光地です。中でも有名なエアーズロック(正式名はウルル)は圧倒的な地球のスケールを感じることができる自然の名所。ただ、実際には大きな岩山ですので歩きなれていない方は思いがけず転倒することも少なくありません。ただ転ぶだけならまだしも、転んだ拍子に胸部を強打して肋骨等を折ってしまった方の報告もあります。
このような雄大な自然が見どころの観光地は裏を返せば人間の集中する都市部から離れているということ。重傷を負ってしまった方はヘリコプターで緊急移送され、近郊の診療所で初期治療を受けた後、更に都市部の病院へされました。広大な国土を持つオーストラリアでは、救急搬送がヘリコプターになるケースが多いこと、また設備の整った都市への搬送にもセスナ機のチャーターが必要なこともあります。この事例の場合には搬送費用に加えて、入院・手術日本にいたご家族が現地に駆け付ける渡航費も含め、総額は300万円を超えています。
上にあげた事例は、決して特殊なものではありません。保険会社は保険を売ることが商売ですので、高額な保険金支払い実績とともに、「保険をかけなければ金銭的に大変なことになりますよ!」というポジショントークをしているのではないか、とお感じになる方もおられるでしょう。もちろん、一定程度はそうした側面があることは間違いありませんが、いくつかの保険会社からの情報を総合すると、海外に渡航される方の25~35人に1人程度の割合(概ね全旅行者の3%前後)は渡航先でのトラブルに伴う保険金支払いを請求しているとのこと。この割合を多いと見るか、少ないと見るかは皆さん次第ですが、トラブルに遭わないよう十分注意してもなお起こってしまう被害にどう備えるか、は考えておく必要があるでしょう。
特に、クレジットカード付帯保険で安心してしまっている方は注意が必要です。こうした付帯保険は補償額が低いことが多く、治療費100万円や200万円では欧米やアジアの都市部で入院や手術が必要になったケースでは金額的に十分ではありません。また、利用付帯の条件を満たしておらず補償されないケースも頻発しています。現地病院に対して自分が治療費を支払わなくても済むいわゆる「キャッシュレス治療」が使えないカードもあり、結果として保険に入っていると思っていた(実際に入っている)のに使えなかったという事態が生じます。
弊社は保険会社ではありません。あくまで海外に挑む日本人皆様が安全・健康にお過ごしいただくために必要な情報提供やアドバイスを提供することが使命です。そして海外で皆さんがトラブルに遭いにくくするための知識やノウハウを全力でお伝えしますが、それでもなお起こってしまうのがトラブルです。トラブルが起こってしまうと怪我や病気をなかったことにはできませんが、それでも金銭的に補償があるのとないのとではその後の帰結がまったく異なるのは言うまでもありません。保険でトラブルを防ぐことはできませんが、トラブルを防ぐ方法を熟知して実践できる方でも保険なしで海外に渡航することはおススメできないのです。海外旅行保険は、旅行のオプションではありません。海外に出る以上、保険は必ず装備しておいていただきたい安全装置であることを当サイトからもお伝えさせてください。
今の時代、インターネットで検索すればいくつかの海外旅行保険がオンラインで申し込み可能であることは簡単にわかると思います。当サイトとして特定の保険会社を推奨することはありませんが、例えば以下のような保険会社は経営基盤やそのサービスに一定の定評があります。またオンラインでの申し込み手続きも比較的親切に解説されていますので、ご参考になさってみてください。
損保ジャパン海外旅行保険(OFF!)
AIG損保海外旅行保険
ジェイアイ傷害火災保険(T@biho)
東京海上日動海外旅行保険(Marine Passport)
この項終わり






