【実験】ChatGPT・AIチャットボットに安全対策の相談はできるか?

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話題のGPT-4で遊んでみました!

みなさんこんにちは、代表の尾崎です。

今日は一風変わったコラムをお届けしたいと思います。2023年3月14日からOpenAIが開発中のAIチャットボット最新バージョンであるGPT-4がリリースされました。AI開発者やコンピュータープログラムの開発者の間では話題沸騰、と言える状況ですので、早速私も遊び半分いじってみました。安全管理の専門家の立場でこのAIチャットボットがどの程度安全管理/危機管理面で活用可能な状態なのかを調べてみましたので、ご参考になさってください。

 

話題の…と書いてみたものの、尾崎自身もAIがどうとか、プログラムがどうとか、という話題になると門外漢であることは否めません。当サイト運営を助けてくれている関係者にも質問をしながら尾崎が理解できる程度にそもそもAIチャットボットとは何なのか?をおさらいしてみましょう。

 

チャットボットとはChat=おしゃべり、をするRobot=機械、という意味合いで作られた造語。人間が入力した文章の意味を読み取って、その質問に回答したり、提案をしたりしてくれる機能です。日本語では「自動会話プログラム」と表現されることもあります。このチャットボット、もちろん裏側では適切な回答を文章にするためのプログラムが必要です。回答を作成するためのプログラムとしてインターネット上の様々な関連情報を収集して、自然な文章にする人工知能が活用されることが一般的。

そういった人工知能の一つがChatーGPTと呼ばれる仕組みです。これはアメリカのOpenAIという会社が開発している人工知能の仕組み。GPTとはG:ジェネレーティブ、P=プリトレインド、T=トランスフォーマー(Generative Pre-trained Transformer)の頭文字を取ったもの。つい最近、3月14日に最新版となるGPT-4というバージョンが公開されており、このバージョンはいよいよAIが人間並みの能力を発揮し始めたのではないか、と話題になっています。(現時点では月20ドルの有料プランに申し込むことで最新版がつかるようになっています。無料で使う場合にはGPT-3.5 までが利用可能です)

 

ここまでが、大まかなチャットボットやChat-GPTの説明です。繰り返しますが、尾崎はプログラミングやAIの専門家ではないので、あくまで自分の理解をまとめただけ。細かいところで正確ではない記述もあるかもしれませんがこの点はご容赦下さい。

 

せっかく話題になっているので…ということで尾崎も週末この最新のGPT-4を活用したAIチャットボットで遊んでみました。ちなみに当サイトでは以前から海外での安全管理もDX化で効率化、低コスト化が実現できます!と主張しています。このAIチャットボットシステムが弊社のサービスにも活用可能かどうか、を見極めるのはある種、本業の一部と言えなくもないですね。

【参考コラム】海外での安全管理もDXで変わる!

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業界最速!?安全管理をAIチャットボットに相談する実験

それでは、早速実験の結果を!

結論から申し上げますと

1)テロや犯罪、デモ等何が起こったのかを知る

2)なぜその事象が起こっているのか、背景を知る

ために使う分には、大多数の安全管理担当者のレベルを超えています。

他方で、

3)直近発生した事象の影響がどの程度続きそうなのか?

4)今回の事象を受けて、将来的にどんなシナリオが想定されるのか?

5)皆さんの企業・団体がどう行動すべきかの助言

といった点はまだまだという印象です。ただし、質問の仕方によっては安全管理ノウハウを有していない方、兼務で安全管理を担当している方でも社内/団体/学校内向けにそのまま転送できそうな回答は得られます。しかしながら、正式に海外に渡航する方や海外事業部門に転送するためにはChat-GPTの回答の質を判断する必要があり、その点では難易度はまだ高いかもしれません。

 

今回このコラムでご紹介する実験の題材にしたのは、現在フランスで大きな問題になっている年金改革に対する全国的な抗議活動。日本語メディアではなぜかあまり大きく取り上げられていないのですが、公務員のストライキによって首都パリ市内で一週間以上ごみの収集が止まったり、都市によっては抗議する市民らが市庁舎に侵入したり、とかなり大問題になっています。まだ、状況をご存じない方はこちらのニュースからぜひご確認下さい。

【参考ニュース】フランス国内各地デモの暴徒化・逮捕

まず上記で取り上げた

1)テロや犯罪、デモ等何が起こったのかを知る

2)なぜその事象が起こっているのか、背景を知る

についての質問と回答結果を見てみましょう。

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現時点でChat-GPTが学習を完了したのは2021年までのデータである、とされていますが、上記回答は安全管理の専門家を自負する私から見てもほぼ完璧です。データセットが少し古いがゆえに記載が出てきてしまう新型コロナウイルス感染拡大への不満はもはやフランス在住の方は誰も感じていないでしょうけれども…。

私なら、「直接的な原因である年金制度への改革反対に加え、格差の拡大や生活苦が背景にある」という解説をするでしょうし、移民や人種差別問題は繰り返しフランス国内で問題になっているデモや暴動の要因であると言えます。普段世界情勢をつぶさに追っていない方でもこれだけの回答を数十秒で得られるのですから、このチャットボットは極めて優秀です。

 

では、後段の質問例と回答を見てみましょう。

3)直近発生した事象の影響がどの程度続きそうなのか?

4)今回の事象を受けて、将来的にどんなシナリオが想定されるのか?

5)皆さんの企業・団体がどう行動すべきかの助言

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尾崎が多くのお客様と対応していてよく聞かれる質問のタイプが「いつ〇〇が起こりそうでしょうか?」「いつまで□□を警戒すべきでしょうか?」といったたぐいの質問です。この手の質問には、明確に回答できる場合と、「正直現時点ではわかりません」というお答えになる場合、二パターンあります。状況に応じて、根拠と共に見通しを提供するのが尾崎のコンサルテーションスタイルです。

他方で、現時点でのChat-GPTでは未来を予測するような仕組みにはなっていないと思われます。加えてユーザーに不用意な未来予測を提供しないよう、将来の話には明確に答えないようなアルゴリズムが組まれているのかもしれません。このため、皆さんが特定の国・地域の政治情勢、治安情勢の見通しを質問したとしてもおそらくはAIチャットボットで的確な回答は返ってこないように思います。

 

下の写真はどうでしょうか?

現在フランスから流れてくるパリ市内の様子やその他都市での治安当局と群衆の衝突の様子を見ていると、「日本人が不用意に現地に行って大丈夫か??」と思うような写真もしばしば目にします。海外に従業員・関係者を派遣する立場からすれば、「今ここに人を派遣して何かあったらどうしよう??」という考えになるのは無理からぬこと。

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パリを代表する観光地凱旋門付近での放火を含む暴力的デモの報道で使用された写真(2018年11月ガーディアンのウェブサイトよりキャプチャ)

そういう時こそAIチャットボットに「今自社の関係者を出張させても大丈夫か?」と聞きたくなると思いますが、現時点では一般論としての回答が得られませんでした。「出張の必要性とリスクに応じて判断してください」という趣旨の回答どまりであり、明確に「今出張してよい、出張しないほうがよい」という回答はAIをもってしても得られないのです。

 

なお、出張する場合の注意点として4点挙げられています。これらはいずれも間違いではないですが、安全管理の専門家ならいざ知らず、普段営業や開発、あるいは研究に専念している出張者にこの情報だけ転送しても恐らく適切な安全対策、危険回避策は講じられないでしょう。この点でも現時点でAIチャットボットだけでは安全管理はできないだろうな、と感じます。

 

なお、ここまで画像でご紹介したのは、無料で使えるGPT-3.5 の回答です。GPT-4では同じ質問を投げかけてもまた違った趣旨の回答が出ます。より気配りが効いた回答をご覧になりたい方は具体的なAIチャットボットの使い方と共にお伝えしますのでお問合せページからお気軽にお声掛けください。

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危機管理業務における将来的な人間の役割を予言する

さて、最後に実験を経て尾崎が感じた企業・団体・学校の将来的な危機管理業務の在り方について触れたいと思います。既に説明した通り、事実関係や過去の類似事案などを調べるのであればAIチャットボットは大変優秀です。よほど長くテロや犯罪、大規模デモなどを追いかけている人であってもサッと回答できないレベルの情報量が即座に返信されてきます。

加えて、一般的に海外での安全対策専門家と言っても得意な地域は極めて限られます。インドやパキスタンの事情に詳しい人がロシアやウクライナの問題について過去数百年の経緯や民族的分布、プーチン大統領の思考法などまで把握してアドバイスすることは難しいでしょう。まして、中南米(メキシコやペルー等)の事情と北アフリカ(チュニジアやエジプト)では現地の暮らしぶりからしてまったく違いますから求められる安全対策も大きく変わります。このため、通常セキュリティコンサルタントは一人で全世界対応します!という方はおらず(もしそういう人がいるならばその知識レベル・技量を疑う必要があります)、それぞれの専門分野を補いあう形で協業することが一般的です。

他方、AIチャットボットは文字通り全世界すべての情報が蓄積されたデータセットから関連する情報を探してくるような仕組みになっています。つまり、一つのプログラムで全世界の情報収集が完結するのですから、この点では人間に勝ち目はないと言ってもいいでしょう。

 

では、海外での安全対策に人間はいらなくなるのか?と言われたらそうではないと尾崎は感じています。その最大の理由はAIチャットボットではどうしても不確実な将来を見通すことが難しいからです。いずれはAIが進化してシナリオごとの発生確率を割り出したり、それぞれの帰結を提示してくれるようになるのかもしれませんが、少なくとも現時点ではそのような回答は得られません。当面の間世界全体の潮流を把握した上で、皆さんが進出している海外の国・地域での今後の政治・治安情勢シナリオを提示してくれるセキュリティコンサルタントの必要性は変わらないでしょう。

 

もう一つ尾崎が感じるのは、例えば新型コロナウイルス感染症の対応初期(2019年末~2020年前半)のように、過去人類が直面したことがない事態ではAIチャットボットが参照できる関連データがそもそも存在しないという弱点がある、ということです。全世界のほとんどすべての国が国境を封鎖する、一日単位で外国からの入国条件が変わる、民間航空機のフライトスケジュールが変わる、といった事態はいかにAIと言えども把握が追い付きません。

人類が経験したことのない事態、特に「緊急事態」でどのように行動すべきなのかを最善策、次善策といった形で提案できるのはやはり経験とノウハウに裏打ちされた人間の知能が必要と言えるのではないでしょうか?

 

安全管理においてもAIチャットボットは活用方法次第で大変便利な可能性があります。しかしながら、安全管理の相談をAIチャットボットにだけ任せていると将来のシナリオ予測や未曾有の事態への対応が後手に回る可能性もある、という点は念頭に置いておく必要があるのではないでしょうか?

 

この項終わり