開発途上国で選挙が行われる際の対応(2024年版前編)

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開発途上国では選挙=リスクが高まるタイミング

2024年も開発途上国と呼ばれる国々での選挙が数多く予定されています。宗教イベントと並んで、「リスクが高まる時期を推測できる」ことが選挙をはじめとする政治イベントの特徴。つまり、宗教イベント同様、事前にスケジュールを把握し、必要な安全対策を整えることができるのです。主要国の宗教イベントや政治イベントは当サイトが「リスクカレンダー」という形で無料公開しています。

 

日本ではあまりにも淡々と投開票が行われていますし、概ね事前の報道通りに結果が出てしまうこと、また政権交代が起こったとしても既得権益層がガラッと変わる、外交や内政面で政策が大幅に変更されることはまずありません。ただ、国によっては選挙結果によって税金の主な使い道が大転換する、インフラ整備を優先的に行う地域が変わることはよくありますし、なんなら中心的な同盟国が変わる(たとえばインドか中国か等)こともあり得るのです。つまり選挙はその結果が向こう数年の政治を決定するという意味で、政党同士、民族や地域等が将来の命運をかけて戦うリスクイベントなのです。

と、やや盛大に煽ってしまいましたが「間違ったタイミングで間違った場所にいない」、というごくごく基本的な対策を講じることができれば、お金をほとんどかけなくても海外でのリスクを下げることができる、それが選挙をはじめとした政治イベントの特徴です。大部分の日本人にとって海外駐在先、あるいは出張先の選挙で投票権を有することはないハズです。また、よほどの事情がないかぎり、政党の政治活動に参加したり、あるいは立候補者の演説を群衆に交じって聞く必要もありません。

 

投票所や政治集会の会場等リスクの高いとされる場所にいても得られるメリットがないのであれば、近づかない、という選択肢が一番です。選挙時期以外であれば普段生活の中で通過する場所に選挙に関連する施設が設置されることもあろうと思います。その場合には、周辺に群衆がいないのであれば通常通り、群衆が集まっているようであれば迂回して通行する、といった工夫でグッと皆さん自身がなんらかの巻き添え被害に遭うことを減らすことができます。

 

総論として

1)日本と海外では選挙実施時の治安リスクが異なる、

2)選挙前後には投票所や政党事務所、選挙管理委員事務所等に近づかない

の二点をまずは覚えていただくことが大事です。

 

では、具体的に2024年に予定されている開発途上国の選挙日程を見てみましょう。

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2024年の主な選挙日程

1月7日  バングラデシュ 総選挙

1月13日  台湾 総統選挙/議員選挙

2月8日    パキスタン 総選挙

2月14日  インドネシア 大統領選挙/総選挙

2月25日  セネガル 大統領選挙

3月17日  ロシア 大統領選挙

4月10日  韓国 総選挙

6月2日    メキシコ 大統領選挙/総選挙

11月5日  アメリカ 大統領選挙

(このほかインド、ルワンダ、南アフリカ、ガーナ等で総選挙が予定されています。またロシアとウクライナの軍事衝突に関係がありうるという観点ではモルドバ大統領選挙も重要な位置づけであり、セキュリティリスクの高まりに警戒が必要です)

 

このほかにも多くの選挙が予定されており、全世界が注目するアメリカ大統領選挙を含め、一部の国では既に選挙前後に治安や政情の混乱が発生する指摘する声が出ています。

海外に駐在・出張・旅行される方でも該当する国がなければ関係はありませんが、もし上記の国に渡航される計画があれば、ぜひとも日程をチェックしてくださいね。なお、このほかにもまだ発表されていない選挙日程があり得ますので、渡航先の選挙日程はできるだけ把握することをおススメします。

(北米やヨーロッパ、オーストラリア等でも多数の選挙が行われます。欧米諸国を中心に先進国での選挙はそれほど混乱しないことが多く、本コラムには記載しませんが、渡航予定の方はあらかじめ調べておくことをおススメします)

 

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開発途上国で選挙が行われる際のリスク

さて、なぜ開発途上国では選挙の開催が安全上のリスクにつながるのでしょうか?

日本にいると、選挙運動も平和裏に行われますし、投開票も極めてスムーズ、さらに開票結果を巡って

 

「開票が不適切だ!」

「そんな結果は受け入れられない!」

 

といったもめごとはごくごくまれです。

 

ただ、これは日本における民主主義制度が(少なくとも)候補者選定の面では成熟しており、また、国家を深刻に二分する争点も多くはありません。加えて、選挙管理委員会等選挙制度への信頼が強い、といった要因が影響しています。反対に、途上国では、国民が選挙制度を信用していない、一部の政党が一部の住民を組織して選挙プロセスを事実上牛耳るといったケースも起こりえます。さらに、選挙によって深刻な影響を受ける特定のグループ、特定の業界などが文字通り暴力を含む「選挙戦」を戦うことも起こりえます。

 

なかなか日本では想像しづらいでしょうが、一つ極端な実例を挙げてみましょう。

2018年7月に大統領選挙を含む複数の選挙が開催された中米のメキシコ。日本からも進出している企業が多いですし、カンクンなどの世界的リゾートもある国ですが、この選挙は「歴史上最も暴力的な選挙」とまで称されました。

『候補者ら次々殺害 メキシコの“命がけの選挙戦”(NHK)』

(2018年当時のNHK報道記録より)

選挙は無事終了していますが、選挙戦の間、麻薬組織や各地の犯罪組織が取り締まり強化を訴えた候補者などを次々と殺害。なんと選挙実施までに130名以上の候補者が殺されるてしまう結果に。そして、先ほどご紹介した通り、今年2024年は多数の政治関係者等が殺害された2018年以来となるメキシコの大統領選挙/総選挙が予定されています。

 

メキシコに限らず、選挙が実施される際に、気にくわない立候補者、自分たちの利益を損なう立候補者の殺害は世界各地で発生しています。候補者だけが狙われるのであれば日本人への影響はごくごく小さいのですが、実態としては、選挙そのものの妨害を試みたり、対立する主張を持つ支持者らをまとめて殺害しようとしたり、立候補者が参加している政治集会等への襲撃により、より大きな社会不安を巻き起こそうとする事案も発生しており、「政治集会に近づくことがリスク」なのです。

 

短期間の出張や個人旅行の場合は、選挙日程を避けることが最善策です。どうしても日程を避けられない場合はとにかく政治活動や投票所には近づかないようにしてください。これだけで、随分と巻き添え被害を避けることができます。

 

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駐在者がいる場合は選挙リスクの分析を!

それでは、選挙運動や投票日、開票日などの前後も含めて長期で滞在する場合、選挙実施国に海外拠点がある場合、駐在員がいる場合はどうすればよいのでしょうか?選挙があるからと言ってビジネスを止めていては、全く仕事になりませんよね。そのため、選挙リスクを踏まえた事前対応を構築することが必要です。

 

まずは、今回の選挙がどの程度混乱しそうかをチェックすることから始めましょう。以下に弊社がこれまでの経験に基づきまとめた選挙時のリスクが大きいか小さいかを判断する項目を並べました。

皆さんが海外拠点をお持ちの国、駐在員が滞在している国はどういった状況で選挙が行われるのかをまずは確認してみてください。過大評価・過小評価を防ぐために、できれば、駐在している方と日本の本社の方、両方の目線で確認してみることをおススメします。

本コラムの後編では、選挙を控える国に駐在・出張・留学等する場合に、どのタイミングでどんな準備を進めるべきか、をご説明したいと思います。

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