海外で活躍する人材を育てるには

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安全管理に必要な能力との類似性

海外で活躍できる人材を簡単に育成できればよいのですが、実際にはそう簡単な話ではありません。コミュニケーション能力一つとっても、英語やフランス語が流ちょうに話せる人材を育てるだけでも難関です。まして、進出先の国の現地事情を十分に把握し、ビジネスパートナーあるいは交渉相手の文化や考え方を尊重しながらビジネス交渉ができるというのは相当難易度が高いはずです。

 

そして前のページのリストを今一度ご確認いただければわかる通り、コミュニケーション能力はその他たくさんの能力のうちの一つでしかありません。これをすべてカバーしなければ海外で活躍できないか、と言われると決してそうではありませんが、できるだけ多くの項目で水準以上の能力を得ておきたいのは言うまでもありません。個人の努力はもちろんのこと、雇用主である企業・団体の育成も重要になってくるでしょう。

 

ではどのように海外で活躍する人材を育てればよいのでしょうか?世の中に社員教育を担う研修会社、プログラムはたくさんあります。尾崎自身人材育成の専門家ではありませんので、この会社がいいですよ、このプログラムがおススメですよ、とお伝えする力はないでしょう。ただ一つ言えるのは、自分自身の経験上、安全管理の実務を担当すると知らず知らずのうちに海外で活躍するための能力を一定レベルまで身に着けることができたな、ということです。

 

具体的にご説明しましょう。

安全管理の実務を担うということは、駐在している国の事件や事故の発生状況を日々情報収集するということです。その国で暴力事件が起こりやすい要因は何なのか、歴史や宗教、民族、あるいは行政地区といった対立構造が自ずと見えてくるはずです。既に起こった事件や事故だけではありません。そしてその国の政治情勢や民族あるいは宗教の分布を理解して次にどのような事態が発生しうるか予測しなければなりません。

ひとたび関係者が犯罪等に巻き込まれた場合には、限られた時間と真偽不明かつ十分ではない情報を分析した上で問題解決能力を発揮しなければならないのです。たとえ予想外の出来事に見舞われたとしても、対応しないという選択肢はありません。そういう時のために、日頃から現地の日本人コミュニティはもちろん、大使館/総領事館や現地治安当局、事務所の現地スタッフ、旅行代理店やレンタカーのドライバー等との関係構築も必須です。

 

安全管理の実務を担当しつづければ少なくともその国に関わっている事業関係者の誰よりも深くその国のことを理解することができます。政治や治安当局の仕組みはもちろんのこと、その国で権力を担っているのはどういう層なのか、そしてなぜその層が権力を持っているのかも概ね把握することができます。外国人として事業に携わっているだけでは決して見えてこない情報にも触れざるを得ないがゆえに、その国を深く理解し、日本とその国双方の事情を俯瞰することができるのです。

 

いかがでしょうか?前のページで挙げた項目の大部分、以下列挙したような能力は安全管理実務に取り組めば自ずと鍛えられる能力です。そしてより難易度の高い事態に対処すればするほど、能力は高まっていくはずです。

 

コミュニケーション能力

異文化に対する理解・適応力

主体性・積極性

協調性

柔軟性

責任感・使命感

宗教や民族、文化、歴史等の幅広い教養

深い専門性

課題発見・解決能力

チームワークとリーダーシップ

決断力

 

そう、安全管理を担える人材を育成することは、実は海外事業を成功に導くことができる人材を育成することにも通じるとも言えるのです。

 

【次ページでは・・・安全管理は外部委託で十分、という方にマズい先例をお示しします】