海外事業拠点、火事への備えはできている?

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放火事件は意外と簡単に起こせてしまう

昨年2021年は日本国内でも「放火」が多くニュースに取り上げられた一年でした。直近全国に大きく報道された放火事案だけを取り上げても

 

2019年 京都アニメーション放火事案

2021年 小田急線内放火・刺傷事案

2021年 京王線内放火・刺傷事案

2021年 大阪舞洲物流倉庫放火事案

2021年 大阪クリニック放火事案

 

などが思い起こされます。2000年以降に発生した火災の約半数が放火によるもの、とのデータも報告されています。上記の主な放火事案でよく用いられる手法が可燃性の液体を撒き、そこに火をつけるというもの。こうした可燃性の液体は確かに一般的に販売されている商品であることが多く、一部規制はあるものの、購入が極めて難しいというものではありません。

 

また、銃や爆発物と違って、その所持そのものが違法ということにはなっていないので、たとえ悪意を持って保有していたとしても、犯行を計画していただけで身柄を拘束するというのはなかなか難しいと言えます。(よほど詳細な計画を紙やデータで残している、あるいは標的に執拗な脅迫を送る、といった状況であれば別ですが)

 

日本の公共交通機関やテナントビルでも放火が相次いでいること、また以前発生した類似事件を模倣する人がいることも踏まえ、日本国内で生活される皆さんも日ごろから注意をしていただく必要があるのは言うまでもありません。(参考コラム⇒「【緊急寄稿】進化する犯罪/襲撃 我々は被害を防げるのか」)

加えて想起頂きたいのは、日本で簡単にできてしまう犯罪は、海外でも簡単にできてしまう可能性がある、ということ。特に京都アニメーションのスタジオ放火事案は世界的に人気のあるアニメ映画の製作スタジオが舞台であったこと、また33人もの方が命を落とす大事件だったことから、BBC他、国際的なメディアでも大きく報じられています。大きく報じられた、ということは模倣される可能性もあるということです。(先般の大阪クリニック放火事案の犯人は本事案を参考にしていた可能性が指摘されていました)

 

海外での安全管理、というと犯罪被害や感染症対策をまず頭に思い描く方が多いのではないでしょうか?その次に国によってはテロあるいは戦争・紛争、政情不安等への対応、自然災害への対応などを想定される方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、海外の事業拠点や滞在施設等での火災に対してリスク管理を行っている方は意外と少ない、というのが私どもの肌感覚です。

 

特に開発途上国と呼ばれる国では放火のみならず、電気配線の不具合やガスタンクの爆発に伴う火災の事例も多く発生しています。海外でのリスクを整理した際、『火災』は後回し、あるいは想定から抜けがちですが、皆さんの事業展開先の状況を踏まえて、火災にも一定の備えが必要である点は改めてご認識いただく必要があるでしょう。

 

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海外事業拠点で避難訓練は行っている?

日本では地理的に地震が多いこと、また地震の後に火災が多く発生すること、また過去の火災経験を踏まえて火事被害を防ぐための工夫を長年続けてきています。また、義務教育の場で繰り返し火災発生時の避難訓練を繰り返し行っていますので、自然と火事の時の対応が身についている、頭で理解している方も多いのではないでしょうか?

 

ビジネスに関連するテーマでいえば、消防法により、オフィスビルでは消火器の設置や避難経路の確保が義務付けられています。時には以下のように避難経路や非常口が荷物でふさがってしまっているシーンを見かけることがありますが、この場合はビルの管理会社が巡回点検の際、テナントに改善指導を行うように義務付けられています。

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横浜市消防局のウェブサイトで注意喚起されている「消防法違反」の状況

 

ただ、これはあくまで日本のお話。過去の火災や地震の教訓を踏まえ、法律を整え、官民、個人をあげて対策を進めているのが日本という国。たとえ火災や地震が発生しても、その場その場で対応しているだけの国は実はたくさんあるのです。

 

 消防車も救急車もなかなか来ない

 建物の中に消火器がない

 避難経路には書類や荷物が山積み

 

そういった国では日本のようなスムーズな消火活動や避難は期待できません。まして途上国で長持ちする食料や水、簡易トイレなどまで用意している事務所はあるでしょうか?日本でなぜこのようなものを用意しているか、を考えれば海外で火災や地震の被害に遭遇した時にどのような結果となるのか皆さんは想像に難くないはずです。

すでに海外拠点をお持ちの企業・団体の方はまず日本と同程度の消火器が設置されているか、避難経路が確保されているか、など確認してみてはいかがでしょうか?テロや襲撃対策のために強固な壁や屈強な警備員を配置にコストをかけていたとしても、火災で逃げ遅れ犠牲者が出てしまっては元も子もありません。特に避難経路の確保は、万が一襲撃犯がオフィスに押し寄せた際にも関係者が避難できるかどうかにも影響します。

 

海外拠点では人も少なく、「総務部」に相当する部署を充実させることも難しいと思います。日本と違い、ビル管理会社や地域の警察・消防の指導が頻繁に入ることもないはずです。ですので、忙しさにかまけて日本のようにオフィスの整理整頓が後回しになり、結果的に避難経路がふさがってしまっていないでしょうか?避難経路の確保は初期投資がほぼゼロです。火災や地震等、万が一の襲撃に備えた関係者の安全確保策として避難経路の再確認をご提案します。

 

加えて当サイトでおススメしたいのは日本式の定期的な「避難訓練」の実施です。海外拠点では忙しさや日本のような厳しい法規制がないため、定期的な避難訓練は自分たちで企画、実行しなければならないと思います。しかしながら、年に一度避難訓練を行うだけで、海外拠点で働くすべての方の安全に大きく寄与します。

 

ビルの避難訓練マニュアルの一例(横浜市消防局のHPより)

 

火災であれ、地震であれ、突然の侵入者であれ、緊急事態が発生した際にパニックにならない人はいません。パニックになった状態で、これまで一度も練習したことがない避難をスムーズにできるでしょうか?初期消火やけが人の救助、地元警察や警備会社への応援要請、本部への緊急連絡は?

 

パニックにならないことが不可避なのであれば、せめて平常時、冷静な状態で最低限の練習をしておくことに意味があるはずです。日本人はもちろん、海外進出先で雇用された方も一緒に避難訓練することで、企業・団体としての「安全配慮義務」を果たすこともできるはずです。

 

さらに強調したいのは、避難訓練に必要なコストがほぼゼロであるということ。避難経路の確保と同様、人手を増やす必要もなければ設備投資を行う必要もありません。一度、シナリオを描いて訓練すれば、来年も再来年も、ほんの少しのアレンジで訓練ができるため運営維持管理費なども実質的にはゼロです。安全対策にはお金がかかるという先入観をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはコストをかけずにできることもある、ということをご理解いただければ幸いです。

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火災発生時、避難の手引きを確認しよう

最後に、個人のレベルで火災に遭遇してしまった際生き残る確率を高めるためにはどのような対応が好ましいのでしょうか?実は日本各地の消防局が過去の経験を踏まえてノウハウを公開してくれています。当サイトは火災対応に特化した集団ではなく、日本全国すべての消防局ウェブサイトを確認したわけではないのですが、地方自治体で公開されている情報はほぼすべて無料で使えます。特に公共の利益に資する防災や火災対策については日本各地の自治体がかなり詳細かつ有用な情報を無料で公開しており、その一部はそのまま海外でも活用可能なノウハウです。

 

例えば京都市消防局の「火災から命を守る避難のパンフレット」では火災発生時、どうやって避難したらいいかを考えるコツを分かりやすく紹介してくれています。こちらのパンフレットは最初に事例として取り上げた2019年京都アニメーションのスタジオ放火事案で大勢の方がなくなったことを踏まえ、個人向けにわかりやすくまとめられたものだと伺っています。

海外事業拠点に配属になった、あるいは海外での事業活動のために出張する、という方も滞在先で火事に遭遇したら場合どうしたらいいだろうか、を把握しておいて損になるはずがありません。

 

煙や熱を避けるための「四つんばい避難」

一酸化炭素中毒を防ぐための「浅い呼吸」

2階から比較的安全に外に出るための「ぶら下がり避難」

3階以上で身を守るための「一時避難」や「『く』の字姿勢」

より安全な避難経路設定のためのチェックポイント

 

などなど命を守るために必要な情報がわかりやすくまとめられています。日本でも実用的、かつ海外ではあまり教えてもらえない実用的な知識として、ぜひともこうした自治体の資料を活用することをおススメします。

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京都市消防局のパンフレットに付録されている火災から命を守る避難計画作成のための対策チェック表

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