「分かっちゃいるけどできない」災害への備えは今この瞬間にやるのが最適解である3つの理由(突然性・即応性・物資確保)

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(トップ画像は熊本地震で崩落した熊本城の石垣)

本稿執筆監修者 / 海外安全.jp代表 尾崎由博

1981年生。2006年より国際協力機構(JICA)にて勤務。インド、パキスタン、アフガニスタン等南アジアにおける安全対策、開発支援案件の形成、実施を担当。パキスタン駐在中国政選挙や首都における大規模反政府デモ等に対応し、現場での安全管理業務ノウハウを体得。2016年7月に発生したバングラデシュ、ダッカレストラン襲撃事件後に発足した安全管理部の第一期メンバーとしてJICA安全対策制度、仕組みの多くを構築した他、組織内の緊急事態シミュレーション訓練を担当。国連機関及び世界銀行の危険地赴任者向け訓練等を受講しており、JICAのみならず国際機関の安全対策研修内容も熟知。2018年より独立、2020年株式会社海外安全管理本部を設立し代表取締役就任。クライアント行政機関、大手セキュリティー企業、開発コンサルティング企業、電力関連企業、留学関連企業、各種大学法人、一般社団法人や独立行政法人など講演実績:大阪弁護士会「パキスタン投資・リスクマネジメントセミナー」海外コンサルタンツ協会「海外活動安全強化月間セミナー」日経メッセ「セキュリティショー」「多元化する危機管理」他多数。日本経済新聞2020年11月24日付13面に寄稿記事が掲載。

海外安全.jp代表

3月11日を迎えて

2011年3月11日から13年を迎えました。

日本でずっと過ごされている方からすればどうしてもあの日の光景は芽に焼き付いておられるかと思います。2万人以上の方が地震・津波、そしてその後の関連死でお亡くなりになっている現状、改めて当サイトとして、また当サイトを運営する代表者として故人のご冥福をお祈り申し上げます。自然のあまりにも強大な力、そして人間という存在が地球と比べれていかに小さいのか、を痛感させられる出来事でした。それでもなお、あれだけの自然災害があってもいち早く高台に逃げた方の多くは命は助かっています。また、主に関東甲信越では地震後の帰宅難民化や物資不足に備えていた方とそうでない方で発災後数週間の暮らしは大きく違っていたはずです。

「飲食料品をもう少し備えておけば」

「最悪の想定を無視しなければ」

「いざという時の行動を整理しておけば」

といった後悔があるのであれば、いつかは間違いなく来るであろう日本周辺での同等規模の地震/津波に備えて今すぐ取り組む必要があるということに異議はないように思います。国家レベルでは、日本政府内閣府が主に建物の耐震、耐津波構造について公式にまとめ発表した文書があります。同様に、個人レベルでも東日本大震災

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災害への備えはどうしても後回しになる

尾崎が最近気になったニュースが二つあります。一つは現在も投票が進められている「災害への備えは十分ですか?」というYahoonoアンケート調査。こちらは、約2.5万人が回答しているのですが、なんと「全く備えていない」と回答した方が最も多い、という結果になっています。確認しますが、これは日本でテロに対して備えていますか?という質問ではありません。東日本大震災はもちろんのこと、北海道でも新潟や能登地方でも、あるいは少し昔の阪神大震災や熊本大地震など、日本のどこにいても大きな地震の被災者となり得ることは皆が知っているハズの自然災害に備えていますか?という問いに対して3分の1以上の方が「全く備えていない」という回答。これは個人的には衝撃的な数値でした。

あれだけ大きな地震が繰り返されており、また日本人の多くにとって否が応でも防災意識が高まる3月11日を前にしてもこの状況である点は非常に興味深いです。実際に備えができている人はそもそもこの記事を見ない、あるいは投票に参加しない、というバイアスがあるのかもしれませんがそれにしても「あまり備えていない」ではなく「まったく備えていない」が最大派閥となるのはなぜなのでしょうか?実際に被害に遭っていない間にはどうしても備えが後回しになるということなのかもしれません。

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Yahooが調査した「災害への備え」状況アンケート(2024年版)

もう一つ印象的だったのは2024年1月以降、千葉県沖合を中心に増えている群発地震を受け、同県の方を中心に「買いだめ」の動きが広がっているというお話。こちらは、まだ大きな災害にはつながっていない状態での備えの一貫ですので、千葉県の皆さんがしっかり備えているという評価ができなくもありません。

しかしながら解釈の仕方によっては「実際に体感する地震が増えたから買いだめに走る」という災害が起こってから泥縄式に対応している、とも見えなくはないですね。大災害前だからいいじゃないの、というお声もあろうかと思いますが、震度1~5程度の予兆的地震なしにいきなり震度7級が来た場合にはそもそもこの手の「買いだめ」は通用しないという弱点があります。そう、物流網が寸断されてしまったらスーパーやコンビニには商品が配達されてきませんので、「在庫ゼロ」、つまり皆さんが購入できる商品がない状態がしばらく続くからです。

 

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日本テレビ系列が伝えた千葉県でのミネラルウォーター買いだめの現状

この二つのニュースから尾崎個人的には少なくとも飲食料品の備えはもう少し広まってもいいのではないか、と感じています。もちろん尾崎は個人宅に比較的多くの飲料水、お茶、長期保存可能なお米等を家族分備えています。アンケートで「まったく備えていない」と回答した方はもちろんこのコラムを読んでいただいている方にも3月11日や1月17日、あるいは防災の日(関東大震災の日)である9月1日などをきっかけに最低限の地震への備えが進むといいなぁと感じています。

備えというのは何か事が起こってから取り組むのでは遅いのです。ことが起こる前、平常運転が行われている間に行うからこそ備え。つまり取り組むのであれば今この瞬間から、というのが最適解であるとお伝えしたいと思います。

海外安全セミナー

低予算でもできる安全対策からでも取り組みを

日本では自然災害のリスクが大きいですから、地震や台風への備えが優先されることは間違いありません。最優先されるべき自然災害対応ですら取り組みが遅れているのは前述の通りですが、もっと取り組みが遅れているのは海外展開する日本企業や海外に留学生を送り出す大学等の海外での安全対策の取り組みです。こちらも本来は人命が失われたり、大切な従業員・関係者・学生の身に危険が起こる前に取り組むべき事項。

ただ、海外での安全管理にはお金がかかりますし、日本の常識ではなかなか考えられない項目もカバーしなければなりません。費用ばかり掛かって、本当に役に立つかどうかわからない、そもそも効果があるのだろうか?とお考えの企業や大学もまだまだ多いように思うのです。確かに、日本ではよほどのことがない限り一般的ではない安全対策もあります。

駐在員の自宅に警備員!?、

専門の運転手や衛星携帯電話なんかいるのか!?

安全管理に関する講習会って意味あるの??

滅多に使わない緊急事態のための搬送体制を確保すると金がかかりすぎる

といったご意見もわからなくはありません。

しかしながら日本でも自宅のドアにカギをつけないということはまずありえないでしょう。緊急時の安否確認に使う携帯電話を持っていない方はかなり少数派のはず。また、必要に応じてホームセキュリティシステムを導入したり、お子さんにGPSを持たせたり、という取り組みは富裕層と呼ばれる方以外にもかなり広がってきているように思います。こうした取り組みには当然お金がかかっているはずですが、家族の安心・安全のためには不可欠な費用、必要な投資、として理解が広まっているのではないでしょうか。

海外での安全管理や健康管理にはお金がかかります。しかしながら海外で事業活動を行う、従業員・関係者を派遣するということは日本とは全く別のリスクがある地域に送り込むということでもあります。せっかく『人財』として育てた従業員も不幸にして健康を損ねたり、テロや犯罪による死傷の影響で活躍できなくなってしまったら元も子もありません。万が一の際には、『人財』を失うだけにとどまらず、企業・団体の責任を経済的・社会的に負うことにもつながりかねません。

従業員・関係者が活躍し続けるということは、企業・団体が発展し続けるための必要条件の一つ。そして従業員・関係者を守ることは企業・団体を守ることでもあります。従業員・関係者を守るための費用は決して「コスト」ではなく、輝かしい未来を築くための「投資」なのです。SDGsやESGに関心がある経営層の皆様にはぜひこのことをご理解いただき、海外での安全対策に主体的に取り組んでいただければと思います。

また、過去に当サイトのコラムでも取り上げていますがお金や手間をほとんどかけずとも効果のある安全対策の取り組みはあります。安全対策意識を醸成する、関係者の有事対応力を上げる、あるいは真に危機的な時に役立つちょっとした道具を購入しておく、といった取り組みはいざという時に皆さんを本当に救います。そして繰り返しになりますが、こうした取り組みは何も起こっていない時に取り組むからこそ「備え」になるわけです。泥縄式ではなく、今すぐできることから取り組む。この姿勢をぜひ海外事業展開や大学の国際交流業務に関わる方には大切にしていただきたいと考えております。

この項終わり