赴任先の下調べが終わったら
海外駐在の辞令や内示はある日突然やってきます。企業や団体のグローバル化、世界展開が加速するにしたがって、より多くの方が海外に駐在する傾向も出てきているのです。
より多くの方が海外に駐在されるということは
・英語ができるかできないか
・過去に海外に行ったことがあるかないか
・出世街道に乗っているかどうか(!?)
など過去に海外駐在する方に多かった「属性」に無縁だった方も海外駐在を命じられる可能性があるということですね。
また、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアのような「よく聞く国」であればまだしも、そもそもどこにあるんだろう?という国に駐在員を派遣する企業・団体も増えてきています。そういった時に、パニックになったり思考停止してしまうことのないよう、情報提供を続けているシリーズです。
イラクやアフガニスタンのようにあまりにも危険すぎてそもそも家族同伴の駐在が認められていないごく一部の国に赴任してください、と言われるケースを除けば、辞令を受けた直後に考えることは
『家族全員で海外に赴任するかどうか』
ではないでしょうか?
その判断のために必要なのはなによりも赴任先の国・地域の情報です。上のリンクでは、たとえ赴任先の国・地域を知らない方でも日本語で情報を調べられるホームページや方法をいくつも紹介しています。海外駐在を命じられて最もマズいのは予想外の辞令や、赴任先の基本的な情報を知らないことが原因でパニックになること。その状態で「家族全員で海外に赴任するかどうか」を判断してしまうと結果的にいずれかの段階で後悔する可能性が高くなるはずです。
耳になじみのない国・地域であったり、周囲にその国・地域に行ったことのある人がいない場合でも、駐在までの準備期間にしっかりと下調べをすることは可能です。ぜひとも納得のいく結論を出すためにいくつかの情報源に触れてみてください。
家族で赴任する際のデメリット
まず大前提として、当サイトの基本的スタンスをお伝えします。日本国内であれ、先進国と呼ばれる外国であれ、途上国であれ、基本的にはご家族は揃って生活することが望ましいと考えています。家族が全世界のあちこちでバラバラの生活をすることも可能ですし、そういった状態でもSNSやビデオ通話を用いれば意思疎通もできるでしょう。ただ、テクノロジーの進化があっても、「一緒に暮らす」ことで生まれる価値が家族を家族にするのではないか、と思うのです。
ただし、途上国への駐在辞令を受けた本人はともかく、家族全員でとなるといくつものハードルがあることも事実。場合によってはハードルが非常に高いという状況もあろうかと思います。そこで、このコラムではまず家族で赴任する際のデメリットを考えてみましょう。
途上国で家族が揃って生活する際に課題になるのは主として以下の点です。
・住宅環境
・衛生状態
・交通事情
・治安情勢
・生活費の水準(物価事情)
・現地の文化/風習/宗教事情
・教育環境
・日本との移動
いずれも赴任先によって状況は千差万別。しかしながら、日本と同程度かそれ以上という国はほとんどありません。たとえ先進国であっても、日本ほど住居が整っていて、食品も街中も衛生的で、かつ公共交通機関が整っている国はほとんどないからです。また、アメリカやヨーロッパのように、一般的に「憧れの駐在先」とされている国・地域でも犯罪発生率が日本よりも非常に高い、日本ではほぼ発生しない銃を用いた犯罪が多い、というケースもしばしばです。
つまり、家族揃って海外に駐在するということは、何らかのデメリットを覚悟しなければならないということでもあります。それがたとえ先進国であったとしても、日本よりもすべてにおいて生活がよくなるということはありえません。まして、途上国となれば、そのデメリットが多く、そしてまた大きくなることは事実です。
日本と違う海外の暮らしを家族で経験するメリット
前のページで先進国を含む海外生活のデメリットを散々列挙してしまいました。
海外での家族生活は必ずしも日本と比べて便利ではありません。課題も多くあります。しかしながら、既にご説明したように、当サイトの基本スタンスは
「可能であればご家族揃って海外で生活していただきたい」
というものです。このページでは当サイトが考える、家族揃って海外駐在することで得られるメリットをご説明したいと思います。
1)途上国では家族の時間が長い
これは日本での生活の悪いところの裏返しかもしれません。
会社勤めの多くの方は日本で長時間の通勤と一定の残業をされているのではないでしょうか?規程上は勤務時間が平日の8時間となっていたとしても、仕事のために自宅を離れている時間は12時間以上という方も多いように思います。会社での付き合いや各種接待関連の会食等があれば、この時間はさらに伸びるでしょう。
これだけ拘束時間が長いと、必然的にご家族と過ごす時間は短くなります。特にお子さんが小さい頃は会社勤めのお父さんもしくはお母さんのいずれかは寝顔しか見たことがない、というケースも話に聞いています。
途上国では、住宅費がそれほど高くないこと、また治安や交通事故のリスクを避ける意味合いもあって、「職住接近」での駐在をされる方がほとんどです。当然、通勤時間は日本よりも短くなりますし、通勤による直接的なストレスは日本とくらべものになりません。
加えて、海外のオフィスでは勤務時間が終わればすぐに帰宅することがほとんど。職種やポストにもよるでしょうが、日本ほどの長時間残業はまずありえないですし、連日連夜会食やパーティーに参加するのはごく一部の日本人に限られます。つまり、家族と過ごす時間を確保できるというメリットは、日本国内よりも海外駐在中の方が享受できると言えますね。
日本と違う海外の暮らしを家族で経験するメリット
2)家族が一丸となって「冒険」することで絆が深まる
海外での生活、特に途上国での生活には困難がつきものです。
・水道が使えなくなった
・予定外の事情で学校が急に休みになった
・普段買い物に行っているスーパーで在庫がなくなった
・お手伝いさんや門番が不正行為を行っているかもしれない
・大使館からの指示でいったん国外に避難することになった(極端なケース)
などなど、日本ではまずありえないか、あってもすぐに誰かが解決してくれる問題が次から次にやってきます。これはデメリットであることは間違いないのですが、逆に家族が力を合わせて解決していくことで絆を深めるチャンスととらえられないでしょうか?
あまりいい例ではありませんが、日本国内でも便利な生活が一時的に奪われ、苦難に見舞われるケースがあります。そう、大規模な自然災害の被災地での暮らしです。例えば東日本大震災や西日本豪雨等、平穏な暮らし、便利な日常生活がある日突然奪われてしまったと事例は日本でも発生しますよね。
こういった場合、被災した方々がその苦難をどのように乗り切ってきたか、と言えばやはり家族やご近所等人のつながり、絆の強さで乗り切ってきているように感じます。実際にある住宅メーカーが「防災の日」にあわせて実施したアンケート調査では「東日本大震災以降家族の絆の大切さを実感した」という結果がでているとのこと。
日々問題を解決する(解決せざるを得ない)環境で生活することによって、家族の絆を実感し、そしてその絆を深めていくということが可能なのではないでしょうか?
3)国際的な経験を積むことができる
既に多くのメディア等で報じられている通り、日本は今後数十年どんどん人口が減っていくことが予想されます。加えて、食べ物も生活必需品も日本国内だけで生産されているものはほとんどなく、世界各地の生産現場に物資を依存しています。このため、日本国内だけの発展を考えていればよかった時代は終わったと言えます。
今後日本を背負って立つのは、日本のことも考えながら、世界の平和と発展を考えられる人材ではないでしょうか?そういった人材は例えば英語(外国語)ができる、外国人の方と一緒に暮らしたことがある、海外旅行をしたことがある、経験だけで育つものでしょうか?
一概に言えないことは承知していますが、今後世界各地の課題をしっかり理解し、現地の方の視点、国際的な視点、を踏まえて解決策を提示するためには、自分とは違う考え方、生活習慣を持つ方と深く関わる経験がとても大事ではないかと思うのです。アメリカ人やヨーロッパ各地の方との交流経験がある方は多いですが、より人口の多い途上国の方との交流経験を持つ方はまだまだ日本では少数派。
海外生活経験のあるお子さんは将来絶対に活躍できます、とはもちろん言いませんが、海外での生活経験がお子さんの視野を広げてくれることは間違いないのではないでしょうか?
4)日本の便利な生活環境の価値がわかるようになる
これは、当サイト運営者の意見ですが、日本の生活は極めて便利です。日本国内にいると、この便利さをあたかも当然のように感じてしまいますが、その裏には関係者の不断の努力があるはずです。
例えば、水、電気、ガスといった生活インフラはもちろんのこと、公共交通機関の運行も極めて安定しています。また、税金で作られている道路もかなりの部分きれいに舗装されており、災害や事故で損壊してもすぐに修理工事が始まります。情報ネットワークという意味でもテレビやラジオ、インターネット等から情報が得られない場所を想像することすら難しいくらい「いつでもどこでも」情報が入手できますよね。
大災害などで、被害が発生しても国や自治体が速やかに避難所を運営開始しますし、必要に応じて自衛隊などより専門の方々が救助に来てくれます。
こんなに便利な生活ができているにもかかわらず、その便利さがあって当たり前、その便利さが維持できなくなったら関係者が悪い、という感覚になっていることはないでしょうか?
途上国では、行政や民間公共サービス会社も含め「一生懸命がんばりますが、サービスが提供できない時もありますからね」というスタンスがほとんどです。逆に言えば、その程度の不便は織り込んだ上で、サービスを活用し、相応の費用を負担するということがよくわかるのです。
途上国での生活を経験し、日本に帰ってくるとたいていの方はその生活環境のすばらしさに感動します。そして、その環境を維持してくれている多くの方(たいていは顔も名前も知りませんが)に感謝できるようになるのではないでしょうか。
途上国で家族揃って駐在するメリットとして大きく打ち出す項目かどうか、意見は分かれると思いますが、当サイトではこうした日々の感謝ができる方が増えてほしいと願っています。
この項終わり