システムは導入して終わりではない
COCOAアプリをめぐる日本政府厚生労働省の失敗事例は非常に示唆に富みます。特に大切なポイントは二つ。
1)昔と比べ初期投資以上に運用・メンテナンスにコストと労力が必要な時代になっていること
2)開発主体であり、運用責任者である厚生労働省に主体性や体制整備が欠けていたこと
今のようにIT化、システム化が進んでいなかった時代には工場設備であったり、なんらかのハードウェア(機器)は設置・導入するまでのコスト・労働力が主たる「投資」でした。一度導入してしまえばその設備や機器を利用してある程度の期間付加価値を生み出し続けることができたのです。「メンテナンス」という概念はありましたが設置してある設備や機材を大幅にリニューアルするというよりも、故障しないように点検、修理する、マイナーチェンジを行うという意味合いが強く、初期投資にかかるコスト・労働力と比して小さな投入量だったことは事実です。
他方で、現在の特にスマホアプリ等を取り巻く環境はまったく異なります。初期投資で開発、リリースしたとしてもそのまま一定期間使い続けられることはほぼあり得ません。まず予想外の不具合が頻繁に起こるでしょうし、そもそもアプリを動かすためのプラットフォームである基本ソフト=オペレーティング・システム(OS)側も一定のサイクルで修正・アップデートが繰り返されています。
アプリを開発し、利用開始すればコスト・労働力がの投下が減るというわけではなく、むしろ運用を介意した後の不断の修正、アップデート、品質改善への投資が必要不可欠なのです。
昨年9月に発生したとあれる今回のCOCOAの不具合もグーグル社が開発・更新しているAndroidというOSの更新頻度にアプリの修正が追い付かなかったことが発端と報じられています。残念ながら今回の失敗は時代の変化、環境の変化に対応しきれなかった開発・運用の構想に一因があるのではないでしょうか。
もう一つの要因は厚生労働省側の主体性の欠如、あた主体性を持つための体制(人員や予算配分)が追い付いていなかった点にあると感じました。
IT門外漢の尾崎よりもヤフーを運営するZホールディングス川邊社長のツイートをご紹介したほうが説得力があるかもしれません。
「エンジニアを雇用して自前で作る」と「関係者全員で使って試し、ダメ出しする」の2つが基本だと思います。楽天、ヤフー、LINE等、ネット企業はそれをやってます。今日も新機能のβ版を現場のメンバーと一緒に使ってバグ出しをしました。厚労大臣自ら使ってやらないと絶対に良くならないと思います。
— 川邊健太郎 (@dennotai) February 3, 2021
川邊社長はシステム開発は任せきりでは絶対にダメである、厚生労働省の大臣(発注者のトップ)自らが実際に使って不具合がないか確認するような体制を構築すべき、と主張されていると理解しています。
報道によればCOCOAの不具合に関する情報は厚生労働省にも断片的には入っていたようですが、残念ながら開発・運用主体である厚生労働省ではなく、開発業者側の動作テストで事態が判明したとの情報もあります。
新型コロナウイルス対策の関連では、本件以外にも経済産業省による持続化給付金の給付手続きでも電通への「丸投げ」を指摘する報道がありました。限られた人員ですべての行政サービスを賄うことは不可能でしょうから外部委託は必ずしも悪いことではありません。しかしながら、委託という名の「丸投げ」ではいただけません。ましてご説明した通り、初期投資と同等かそれ以上のコスト・労働力をかけて環境の変化に対応し続ける必要がある現在ではなおさらです。
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