海外での安全対策にも「ストレステスト」を実施する方法

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金融業界の常識「ストレステスト」

皆さんは「ストレステスト」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?金融の世界で広く使われている言葉ですが、それ以外の業界に属する方にはあまりなじみのない言葉かもしれません。

金融業界で使われる「ストレステスト」とは株価の暴落や金利の高騰など、金融市場で大きな変化が発生した場合、銀行や証券会社等にどのくらいの損失が発生しうるか、損失を回避する手段が用意されているか、健全な業務を継続できる状態か否か、等を検証する方法です。日本語では「健全性検査」とも言われ、2008年9月のいわゆるリーマンショック後に使われはじめた言葉です。

 

より直接的に表現するならば、金融市場で不測の事態(株価の暴落や金利の高騰など)が発生した場合に銀行や証券会社の倒産可能性を確認するテスト、といってもいいかもしれません。各国の金融当局(日本で言えば財務省や金融庁)は日本の銀行・証券会社が簡単に倒産しないよう、自己資本比率や貸し出しのルール、各会社の投資に対する最低限の規制を行っています。このストレステストの結果も踏まえて、そうした規制が決まっているのです。

 

【参考】SMBC日興証券のウェブサイトより引用

金融業界におけるストレステストとは、株価の暴落や金利の高騰など、金融市場に不測の事態が発生した場合を想定して、ポジション損失の度合いや損失回避策を予めシミュレーションしておくリスク管理手法を指します。特に、銀行など金融業界では、金融システム危機に耐えて業務を継続できるかどうかを調べる手法とされています。「健全性検査」とも称されます。2008年9月に発生したリーマン・ショック後に、米金融当局が大手金融機関に実施した検査をストレステストと称したことが語源とされています。

 

また、最近では単に保有する資産の価値が棄損するケースだけではなく、金融機関が運用する取引システムやATMの稼働等に異常をきたした場合、何らかのきっかけで取り付け騒ぎが起こったようなケースでどういった対応をするか、の確認にも「ストレステスト」の発想が使われているようです。

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当たり前の環境が成り立たない状況で何が起こるか?

2023年アメリカでは2か月の間に3つの銀行が事実上破綻しました。3月にシリコンバレーバンクとシグネチャーバンク、5月にファーストリパブリックバンクの3行が経営に行き詰り別の銀行の傘下に入るという事態に至っています。非常に単純化してお話すれば、上記3行は保有している資産の評価額が急落した際多くの預金者が一斉に預金を引き出そうとして現金が足りなくなってしまった(資産評価額が小さく、現金を他行から借りられなくなった)という仕組みで破綻しました。

 

これらを踏まえ、日本の金融庁では各銀行に対し預金流出に備えた重点検証を行っています。具体的なチェック項目は以下5点です。

 

・想定外の急速な預金流出に備えたストレステストを実施しているか

・固有の弱点を特定し、最も陥りたくないシナリオを想定しているか

・信用不安が発生した時、どのように鎮静するか

・ストレス時の対応手順や報告方法などリスク管理体制が徹底されているか

・万が一、信用不安が顕在化した場合にどの順番で資産を現金化していくか

 

特に上2点は興味深い項目です。なぜなら「想定外の急速な預金流出」「最も陥りたくないシナリオ」というキーワードが含まれているためです。一般的に「ストレステスト」を行う場合、株価の急落や金利の急変動、為替レートの急変動といったある程度「想定しうる」リスクシナリオを用意することが一般的です。ところが最近では、「想定しうる」事態の項目でリスクを極端に増やしてみた、という範囲を超えた事態が次々に起こっているのです。過去に起こったことがない、関係者が誰も経験したことがない事態はそもそも想定すらできません。

具体例を確認してみましょう。上記3行の破綻に最後のダメを押した要因はSNS等で広がった取り付け騒ぎ。過去銀行が直面した口コミ等による取り付け騒ぎ(破綻の噂の広がり)とは桁の違うスピード、規模で「あの銀行は危ないらしい」という情報が拡散してしまいました。過去に起こった取り付け騒ぎを前提にしていると物理的な現金を店頭に並べる、といった対策は一つ有効な手段でした。実際に現金が一定程度あることを目視することによって人々の心を落ち着かせる、というやり方ですね。

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2023年中国の銀行で取り付け騒ぎを防止するために用意された「現金の壁」。古典的ではあるが、一定程度有効(TBSブログよりキャプチャ)

 

他方で、皆さんも日々体感されているとおり、現在は通信技術やSNSの発達に伴い口コミの拡散速度が過去とは段違いに早く、広くなっています。アメリカの銀行破綻が短期間に連鎖した背景にはSNSでの口コミが広がったことに加え、オンラインバンキングの仕組みが発達し、店舗に行かなくても預金引き出しが可能になったことも一因であることが指摘されています。環境の変化や技術の進歩等により、これまで発生していなかった関係者が誰一人経験したことがないような文字通りの「想定外」の事態は思っている以上に身近なところに潜んでいるかもしれません。

 

加えて、日ごろから当たり前だと思っていること、業務継続の前提としているインフラやシステムが機能しなくなった状態で緊急事態の対応を行うことだってあり得る時代です。こちらの具体例としては

 

感染症対策のために全世界の国を跨いだ移動が困難になる

戦争や大災害によって電気やガス・水道といったインフラが大規模に破壊され利用できなくなる

業界の根幹を支えるITシステムが何らかのエラーを起こし基本的な業務が進められない

 

といった事例を挙げれば詳しく説明しなくとも、皆様にイメージしていただけるのではないでしょうか?

こうした事態は皆さんが海外事業で安全対策や健康管理業務に臨む際も意識しておかなければなりません。過去に自社の従業員、団体や大学等の関係者が巻き込まれた事案、あるいは外務省や当サイト等で事例紹介されているトラブルは「想定の範囲内」とも言える事態です。実際にトラブルに巻き込まれるともちろん大変なことになるのですが、過去の延長線上にない事態が発生した場合、あるいは日本国内で別のトラブルが発生している際に海外でのトラブルが発生してしまった際などは用意している緊急事態対応が機能しないケースも十分あり得ます。

このサイトを運営する株式会社海外安全管理本部で行う顧客向けのリスクコンサルティングでは、危機的状況が発生した際の「ストレステスト」もしばしば行います。緊急事態が発生している時には大抵「魔のスパイラル」とでもいうべき負の連鎖が発生しがちだからです。

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比較的難易度の低い「ストレス」の設定事例

では、具体的に一般的には「想定外」とも言える状況下で安全対策が機能するか確認する場合の「ストレス」の事例を挙げてこのコラムをおしまいにしましょう。

組織的に緊急事態マニュアルを定め、対策本部の設置等組織的な対応方針を決めている企業・団体でも本当にそのマニュアルが実践可能かどうかはまた別の話です。頭の中だけでも結構ですので、以下のような状況下で皆さんの組織が定めている緊急事態マニュアル通りの対応ができるかどうか、イメージトレーニングをしてみてください。

 

海外の事業関係者が巻き込まれたと思われる災害で被災地周辺の通信が遮断されてしまって関係者と連絡が取れない

緊急事態が発生した海外の事業現場付近が停電しており、事業拠点が機能しない

大規模なデモ・騒乱により、海外駐在者/出張者が定められた避難場所に到着できない/ドライバー等が公用車駐車場に出勤できない

日本時間の深夜(ヨーロッパ・アフリカ・アメリカの日中)に発生した緊急事態に対し、組織の長を含む数人が本社/本部に到着できない

マニュアルに定められた担当者が出張や感染症の影響で対応できず、代理の人間が不明

海外との緊急テレビ会議を行いたいが、深夜帯でIT系のサポートスタッフがおらず接続できない

マスメディアの取材が殺到し、日本の本社・本部への通常通りの出勤が難しい

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日本人は「停電」が長く続くことに慣れていない。2018年北海道胆振東部地震後の全道停電は完全復旧まで約1週間を要した(スポーツ報知のウェブサイトより)

 

日本に拠点のある企業・団体の場合、海外に駐在・出張している関係者が何らかの被害に遭うのは日本時間の夜遅くあるいは未明の時間帯(欧米の日中の時間帯)がほとんどです。日本では公共交通機関が動いていませんので、日本で支援を行う人々が本社に集まるには思っている以上に時間がかかるでしょう。また、判断の重責を担う経営幹部が寝ている時間帯でもありますが、報告・連絡・相談はスムーズに行われるでしょうか?

 

現地関係者と連絡を行うために携帯電話は必要不可欠ですが、その通信網は維持されていますでしょうか?例えば大規模なテロが発生した際には物理的に電波塔等が破壊されるケースのほか、政府の指示によってテロ対策を目的として携帯電話サービスの電波を止められることもあり得ます。現地の関係者と通信が途絶えた状態を想定して、別の安否確認方法を想定しているかどうか、だけでも対応能力に差が生まれるのです。

 

より「ストレステスト」のレベルをあげるならば、

日本で災害が発生しているタイミングで海外で従業員・関係者が犯罪やその他トラブルに巻き込まれていた場合に対応は可能なのか?

複数の国・地域でトラブルが発生し同時に二つ以上の緊急事態に対応しなければならない状態になった場合本社・本部の体制は整えられるのか?

といった状況も想定することが可能です。

 

より詳しく皆さんが現在定めている危機管理体制、緊急事態対策本部の機能チェックをご要望の場合には遠慮なく当サイトお問合せページからコンサルティングのご依頼を頂ければと思います。