安全対策を検討せよと言われ途方に暮れている方へ

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日本人にとって『安全対策』は身近ではないが

新型コロナウイルス感染症によって海外との行き来が難しくなってきています。しかしながらそれ以前から多くの企業が海外に展開する時代になっていました。そして日本国内市場だけでは生き残れない、とこの1~2年の間に海外進出を決断する経営者の方も増えてきているようです。

 

安い賃金で製造できる場所に工場を作る

新たな市場を開拓するために外国に営業拠点を設置する

外国の企業を買収し、成長を加速させる

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて海外展開にかじを切る

 

などなど、目的は様々でしょうが日本政府外務省が公表している資料からも日本企業の海外進出が増えていることは明白です。

 

 

海外に進出する企業が増えているということ、また世界各地に駐在(長期滞在)する日本人が増えるということは、日本とは違うリスクを背負うことでもあります。拳銃を用いた強盗や、銃の乱射事件がほとんど発生せず、ましてや爆弾テロ等は40年以上発生していない日本と海外での治安状況はまったく違うのです。また、ご存じの通り、新型コロナウイルス感染症を含む様々な感染症や環境の変化に伴う心身の健康維持にも気を配る必要があります。

 

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種がある程度進んだこともあり、海外駐在・出張を再開/規模回復させる企業や、留学生の送り出し再開を検討中の学校法人からご相談を頂くことも増えました。これまで、あまり意識していなかった安全対策、健康管理体制を見直さなければ派遣再開ができない、といったお悩みも伺っています。また、新たに海外展開を検討中の方はまさしくゼロから安全対策、健康管理体制の構築が必要です。

 

このような背景もあり、海外に進出されている多くの企業では経営層から現場の所長クラスや本部の総務・人事担当者に対し「安全対策をしっかり講じるように」との指示が出ているのではないでしょうか?

 

しかしながら、安全な日本で暮らしている担当者の方からすれば、安全対策と言われても「何を」「どのように」やればいいのか、そもそも思いつかないという状況になりがち。

その上、外部委託するにしても

 法律の問題であれば弁護士に

 財務・税理の問題であれば税理士か監査法人に

 人事関連の相談であれば社会保険労務士や採用エージェントに

 ITやウェブシステム関連の相談ならシステム会社やSE派遣会社に

といった具合に相談先がある程度イメージできるものとは毛色が違いますよね。

海外での安全対策や健康管理に関して言えば、弁護士、税理士、監査法人、社労士、システムエンジニア等外部委託先が多く知られている業界と違い、セキュリティコンサルタントという存在もあまり世の中に知られていません。「安全対策」は日本人にとって身近な存在ではなさそうですね。

 

困った時に「誰に相談すればよいのか?」すらわからない、というのは厄介です。経営者などに「安全対策をしっかりね」と言われた方の中には文字通り途方に暮れてしまう方もおられるのではないでしょうか?

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海外での安全対策の参考になる身近な危機対応

確かに日本人にとってテロや銃を用いた重大犯罪は身近ではありません。また狂犬病やエボラ出血熱といった致死率の高い感染症も日本国内で感染する恐れはほぼゼロと言える環境です。それ故にテロや重大犯罪、あるいは致死率の高い感染症の流行といった事案が発生した際の対応方法もイメージしにくいことも事実でしょう。一足飛びにテロや重大犯罪の対策を考え始めると途方に暮れてしまうのはよくわかります。

 

しかしながら雪国で暮らしている人であれば、東京を含む滅多に雪が降らない地域の人に比べて雪道での転倒リスクへの対策はできているはず。また日本で長く暮らしている方は、95年の阪神大震災や11年の東日本大震災等、大地震での直接的な被災経験がなくてもある程度地震時の対応をイメージできているはずです。

 

そう、実は海外での安全対策のやり方を知らない人がいきなり「安全対策をしっかり講じるように」と言われて困ってしまうのは

 

雪がほとんど降らない地域の人が雪道の歩き方がわからない

地震が発生しない国の方が震度3くらいの地震でパニックになる

 

といった事例と似たような現象です。

 

人間だれしも経験したことがない事態には対処のしようがありません。その事態を文献やネットで調べたとしても実体験を伴っていなければ、その対策は「机上の空論」で終わってしまいます。ただし、そうした事態の実体験を持つ人に相談できると話は別です。

 

雪道の歩き方であれば北海道や東北出身の方に聞くことができるでしょう。地震でびっくりしている外国人の方には「日本は時々地震が起こるので、このくらいなら絶対に建物も壊れないから大丈夫」と教えてあげればよいのです。

 

ただ、海外でのテロや凶悪犯罪に遭遇した方が身近にいるという人はごくわずか。相談できないテーマを自分一人で検討するのは極めて困難でしょう。

そこでヒントになるのは日本人なら誰しもが共通して経験している身近な安全対策です。例えばお子さんの通学路の安全チェックなどはいかがでしょうか?お子さんがいらっしゃらない方でも、ご自身の小学校時代を思い出してみると、危険なところに地域のボランティアの方が立っていたり、警察の安全教室が行われたりしていたことをご記憶されているはずです。

 

日本で必要な安全対策と海外で必要な安全対策。リスクの大きさが違うので、レベルこそ違えど、実は共通点もあるのです。例えば次に示すような文部科学省が公表する通学路点検チェックリストは海外でも通用するものです。

 

文部科学省から各地の教育委員会安全担当者に送られた文書から抜粋
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海外での安全対策は子供の通学路チェックのように

日本では当然のことですが、自分たちの日常生活範囲で犯罪を起こりにくくするためには

 

犯罪者に狙われないようにする

周囲から見守ってもらえるようにする

異変があったらすぐ通報し、逃げられるようにする

 

といった対策が必要であることは言うまでもありません。都会に住む多くの方はできるだけ治安のよい住宅を探すでしょうし、住み始めた後も戸締りなどにも気を配るはず。

 

ただ、大人と子供では同じ街で同じように生活していてもリスクが変わってきます。そういった背景から文部科学省は各県の教育委員会等を通じて、子供が通学路で危険な目に遭わないようにチェックするよう呼び掛けています。

もう一度文部科学省が公表している通学路の安全確認チェックリストを眺めてみましょう。文部科学省によれば、大人が普段当たり前のように通り過ぎている場所でも子供の立場に立って慎重に見渡す必要があるとのこと。具体的には

 

子供だったら危険に注意が向かないかもしれない、

周囲から死角になっている場所に子供を狙う不審者が潜むかもしれない、

子供からは対向車が見えづらい道路構造になっているかもしれない、

 

といった項目のチェックリストが並んでいます。このチェックリスト大変よくできており、海外展開先で改めて皆さんの周りにどのような危険があるのか、確認していただくにはうってつけです。たとえテロや銃を用いた凶悪犯罪のイメージができなくとも、自分の子供が日々移動することを想像して何が危険かを考えてみる、というのは必要な安全対策を考える第一歩。

 

 

もし、進出先の外国で「安全対策をしっかりやってくれ」と言われて途方に暮れておられる方がいらっしゃるならば・・・。無料で(税金で)文部科学省が公表している通学路チェックリストを海外拠点の周辺や駐在員の移動経路チェックに適用してみてください。

まずは、それだけでも安全対策の構築の突破口が見えてくるはずです。

この項終わり