『安全確保のためのアドバイス』に対価を払うという意識転換を

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日本は「有益な情報」にお金を払わない文化

皆さま、夏休みいかがお過ごしでしょうか?東京の暑さにちょっとげんなりしている尾崎です。

先般更新した代表のつぶやきでもお伝えした取り安全対策担当者/リスク管理の担当者は他の人が休みがちな時₌気が緩みがちなタイミングこそ気を引き締めましょう、というのが尾崎の考え方です。当サイトを運営する弊社もお客様がお休みに入ることで一部報告書作成やコンサルティング業務が少なくなりますが、海外各地でのニュース更新ツイッターでの情報発信は継続しています。夏休み中であれ海外に渡航されている方の安全に資するニュースは配信し続けた方がお役に立てますもんね。

【参考コラム】リスク対策担当者は「逆張り」の精神で

 

さて、普段であれば弊社スタッフ含め会員限定の事案分析や各種お役立ちコラムの更新タイミングなのですが上述の通り、ニュースやツイッター以外の更新はお休みを頂いていますので代表のつぶやきを立て続けに投稿したいと思います。今日は日本社会におけるリスク管理部門全体への提言に近いつぶやきですがお付き合いください。

 

皆さんは「日経ヴェリタス」という日本経済新聞社が発行する資産運用・投資分野の業界専門誌があることをご存じでしょうか?尾崎は証券アナリストの資格も有しているため、この業界の専門情報も日常的に収集しています。この日経ヴェリタスの8月13日号に興味深い記事が掲載されていました。合同会社フィンウェル研究所代表の野尻さんが書かれた「あなたは資産活用のアドバイスに代金がを払えるか」という記事です。

少しだけ抜粋させていただくと以下のような内容が書かれていました。

現在の金融リテールビジネスは、金融商品にひもづいた収入に依存するモデルです。例えば販売手数料や代行報酬といった投信にひもづく手数料やフィーが減り、提供するサービスが増えることになれば、金融機関やアドバイザーの収益性は低下せざるを得ません。極論すれば、こうした金融機関やアドバイザーから20年、30年といった長い資産活用期をサポートしてもらうのは心配になります。

本来、こうしたアドバイスの報酬はアドバイスというサービスにひもづけて支払われるようになるべきです。これを商品にひもづけて支払っている限り、金融機関やアドバイザーの持続性が気になることになります。

われわれは「アドバイスというサービスへの対価は不要」と考え、無料で受けたいと思うものです。しかし、無料のサービスはいつまでも続けられません。途中で放り投げられては迷惑な話です。逆に収益をカバーするために、表面からは見えない高い手数料の金融商品を販売することで、帳尻を合わせようとする金融機関やアドバイザーも出てきかねません。そろそろ、われわれはアドバイスというサービスに正当な報酬を払うべき時代に来ているのではないでしょうか。

 

値幅を取りましょう、投資で儲けましょうという「利益」が上がる世界ですら「有益な情報」にお金を払うことが少ないのか、と感じました。一般の方からすると投資で役立つ情報というのは銀行や証券会社の営業情報とほぼ同義なのでしょうか。本来は役に立つ情報を先行投資として購入し、その投資額以上に利益を上げるように工夫をする、というのが当たり前なのかな、と感じています。消費者としては野尻さんもおっしゃるように「アドバイスというサービスへの対価」は無料の方がありがたいなぁと思いますが、無料の情報というのは得てして質もしれています。ですので、尾崎自身も10年近く前に自分自身への投資として「証券アナリスト」資格の勉強を行い、そのうえで日々有料の情報に触れています。

有料のアドバイスでも当然100%あたるわけではないですが、無料の情報よりはまっとうな情報が含まれていることの方が多いです。加えて、実は大事な話として、無料の情報ばかりを消費者側が求めると、アドバイスというサービスそのものが成り立たなくなる、無料サービスを提供する人がいなくなる、という問題提起も印象的です。

尾崎は実際に金融のリテールに関わった経験がなく、また自分自身では投資に資する情報を購入しているので、大変新鮮な記事でした。

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情報料は「保険料」に上乗せされているという現実

実は安全管理の業界でも似たような状況は発生しています。日本では「飲み水と安全はタダ」という言葉がある位、安全対策に役立つような情報は無料という前提が確立されてしまっているように思います。税金を資金源として国民保護業務を行う外務省を筆頭として、海外のテロや犯罪情報を無料で提供するサービスがほとんどです。

一般の方向けのニュースや簡単な分析は当サイトも無料でやってしまっているのですが、海外での事業活動を支援するような競合他社もニュース系の情報は無料で閲覧できるようになっているケースが多くあります。大勢の方が無料で読める記事がある、すなわちその会社の利益にならない形で有益な情報を提供しているのが実態です。もちろん、無料の情報提供だけでは会社は存続できませんので、一口に情報提供と言っても、専門的なコンサルティングや海外の事業現場での警備員配置であったり、施設やオフィスの警備助言は専門サービスとして有料で提供されているのですが。

 

なぜこうした情報が無料で提供されるのか、と言われるとそこには当然からくりがあります。日本企業の場合リスクアドバイザリーを行う企業の一部は保険会社が母体になっている、あるいは保険の代理店になっている企業が少なからずあります。こうした企業の場合、安全対策に資する一般的なアドバイスは無料で行い、保険を契約してもらうことで保険料ないし、保険販売手数料で売り上げをあげることになります。

 

こうしたケースの場合は保険料にアドバイスのための費用(人件費や調査費用等)が組み込まれていると言ってもいいかもしれません。先ほど引用した金融商品の場合で言えば、資産運用のアドバイス料は一見無料に見えて、販売手数料や信託報酬に上乗せされている、という構図と同じですね。

本来であれば保険が必要な方はその保険に必要な対価を支払う、アドバイスが必要な方はアドバイスの対価を支払う、が望ましいのだと思います。しかしながら生憎、「飲み水と安全はタダ」という発想になってしまうとアドバイスにお金は払いたくない、ということになります。アドバイスはその効用が分かりにくく、対価を設定しづらいということなのかもしれませんが、暗黙のうちに保険料などにアドバイス料が上乗せされている状態はいびつである、と言えなくもありません。

 

投資や資産運用と同様に「有益な情報」にはしっかりと対価を払う、という考え方が日本にも定着するといいなぁと尾崎は考えています。(実際に外資系のお客様の場合には、ちょっとした照会事項にメールや簡単なビデオ通話で回答するだけで数万円以上の報酬を頂くことが一般的です)

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アドバイスに対価を払うことが将来あなたを助ける人の仕事を生む

誤解を避けるため、念のためお断りしますが、安全管理に関する無料のアドバイスすべてが質が低いというわけではありません。当サイトで提供している無料情報も必ずファクトチェックを行い、複数のソースを確認した上で記事にしています。そして弊社では保険を売っていませんので、これらは今のところ正真正銘の無料奉仕(笑)。無料のメールマガジンも含め海外にいる日本人の皆さまに少なからずお役に立てるようにという一心でやっております。

 

ただ、アドバイスを無料で提供し続けることはリスク管理会社・セキュリティアドバイザー等にとって持続可能とは言えないのです。例えば尾崎の安全管理ノウハウは1)インド・パキスタン・アフガニスタンで培った現場経験に基づく安全管理実務経験、2)獣医学部で学んだ感染症や病原体の基礎知識、3)証券アナリスト資格を取得する過程で得た金融を通じて世界を俯瞰する視点、の3つの能力に立脚しています。これらは一つ一つを習得するだけでもそれなりに時間と労力と金銭的な投資が必要なものですし、この3つをすべて一人の人間がやっているというのはもしかしたら日本で尾崎だけかもしれません。こうした能力を有している専門家が関わるという点で無形のアドバイスにもそれを提供する人間への報酬が必要なことはわかっていただけるのではないでしょうか?

 

安全対策に資する「有益な情報」、アドバイスを無料でもらい続けたい、という気持ちはわかります。そしてそうした情報に支払うための予算が企業・団体・学校に設定されていない、ということも存じております。しかしながら少しずつこうした無形の情報に対価を払う、という社会になって欲しいなぁという願いがあります。

 

それはなぜか。先ほどご説明した通り、安全対策のアドバイスや、現地のセキュリティマネジメントを的確に行える人に報酬が支払われないというのは持続可能ではありません。他方でいざ、緊急事態が発生した際や、なにかの事情で安全対策を強化する際、各企業・団体・学校にはそうした専門家に頼らざるを得ないわけです。ということは、皆さんがアドバイスを無料で欲しいと願い続けること、つまり対価を支払わずに無料情報だけにただ乗りし続けると日本人のセキュリティ専門家は業界で食べていけないという状態を生みます。いざという時に皆さんを助けてくれる人材に、平時にはお金を払わず能力開発を支えることもしない、というのは実は皆さんご自身の首を絞める結果になるかもしれません。

 

皆さんがいざという時に海外で安全を確保するための質の高いアドバイザーを見つけられるようにするためにも、正当で的確な「有用な情報」には適切な対価を払うという考え方を意識していただきたいと思います。

この項終わり