【事案分析】米国「特別指定国際テロ組織」とは何なのか?

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イエメン武装勢力フーシ派の「特別指定国際テロ組織」再指定

米国は17日、中東イエメンの反政府武装組織フーシ派を「特別指定国際テロ組織(SDGT)」に再指定しました。イランを後ろ盾とするフーシ派は、紅海で商船などを狙った攻撃を続けていることから、米英の連合軍は現在類似フーシ派軍事拠点とされるイエメン領内に対し直接攻撃を実行しています。米政府高官は再指定について、「フーシ派が紅海で続けている攻撃を阻止することが目的だ」と説明しており、さらに「こうした攻撃は明らかなテロの実例であり、国際法に違反して人命や国際的な通商を脅かし、人道支援の提供を危うくしている」と強調。イエメン領内への攻撃を正当化しています。ただし、国家としてのイエメンへの宣戦布告はしていません。

とはいえ、フーシ派は事実上イエメン北部の広い地域を管轄下に置き、法律上のイエメンの首都であるサナアも支配地域内です。支配地域では実質的な政府として統治しており、「武装組織」という表現を見て多くの日本人がイメージするようなゲリラ団体ではなく、内政や司法、外交や軍事に至るまで様々な対応が可能な組織である点を認識しておく必要があります。

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フーシ派とされるグループの反米集会の様子。少年らも参加している様子がわかる(ロイターのウェブサイトよりキャプチャ)

このフーシ派、2019年トランプ前大統領の任期終了間際に米国政府としてテロ組織に指定した経緯があります。しかしながら、バイデン政権に代わって2021年2月にSDGT指定と外国テロ組織(FTO)指定は解除されていました。今回イエメンを拠点として紅海を航行する一般商用船にも繰り返し攻撃が行われたことで、同じバイデン政権として改めてフーシ派をSDGTに指定したものと想定されます。なお、SDGT指定は手続き上1月17日から30日後の2月中旬に発効します。

 

この記事では今回事実上広い範囲を支配しているフーシ派のSDGT再指定を機に、日本語でもよく聞く「国際テロ組織」という言葉の意味合いや、米国や国連で「テロ組織」と認定された場合にどのような制裁が加わるのか、簡単に見ていきたいと思います。

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そもそもテロは定義できるのか、という問題

日本国内ではあまり縁がないがゆえに、日本では「テロ」とは何かを議論するシーンがほとんどありません。爆発や銃撃が起こるとなんとなくテロやテロリストという言葉を連想しがちですが、具体的に「テロ」ってどう定義されるのだろうか?と考えたことがありますでしょうか?

 

実は「テロ」について国際的に合意・確立された定義は存在していません。これは、例えば民族紛争や宗教紛争等がある場合、当事者の一方は「テロ」だと見えるものの、もう一方の当事者からすれば、本来あるべき権利(居住権や信仰の自由等)が侵害されたが故の正当防衛に近い行為だ、と主張するケースなどがあり得るためです。(2023年10月以降現在進行形で続くイスラエルとパレスチナの双方の主張がすれ違っていることをイメージいただければわかりやすいでしょうか)ということで、実際には何をもって「テロ」と呼ぶかが決まっていないのです。

日本政府外務省もこうした背景を踏まえ、外務省が運営する「海外安全ホームページ」で各国のテロ情勢を記載するページには以下のような注記を必ず掲載しています。爆発や銃撃で死傷者が出た場合でもそれそのものをもって「テロ」と判断するのではなく、個別に現地政府の発表や事案の背景、外交上の経緯等を踏まえて「テロ」と表現するかどうかが判断できるようになっています。

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日本政府外務省「海外安全ホームページ」の各国別テロ情勢に必ず付されている注意書き

つまり「テロ」を実行する個人が「テロリスト」、「テロ」を集団で計画・準備・実行するグループが「テロ組織」とは定義できますが、肝心の「テロ」とは何か、を明確に定義づけることは現時点では難しいというのが実情です。ですので、「テロリスト」指定、「テロ組織」の指定というのは究極的には非常に主観的なものになります。「テロリスト」とラベルを付けることは必ずしもその関係者が絶対的な悪であるということを意味しません。あくまで、特定の国、あるいは自分たちが被害を受けるかどうか、自分たちが当然と考えている考え方を脅かす団体かどうか、が一つの判断基準になっている点は念頭に置いておかなければならないのです。

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国際テロ組織に指定されるとどうなるのか?

そこで話を米国政府がイエメンを拠点とする武装勢力フーシ派を「特別指定国際テロ組織」(SDGT)に再指定した事案に戻しましょう。これはあくまで米国の主観に基づく指定であることを少しだけご説明します。

米国におけるSDGTという概念のきっかけは2001年のアメリカ同時多発テロです。この時政権を担っていたジョージ・W・ブッシュ大統領の元で米国に対する脅威を排除することを念頭にテロ組織を指定し、監視・制裁を加える「特別命令」が作成されたのです。当時の基準は「米国の国家安全保障、外交政策、経済を脅かすテロ行為を行った、または行う重大な危険があると判断した外国の個人または団体」であり、そうした個人や団体の活動を支援・後援、また財政的、物質的、技術的にサービスを提供する関係者も指定の対象になりうるとしています。最新の米国SDGT指定組織リストはコチラのリンクで公開されており、いつでもだれでも閲覧が可能です。

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米国国務省のページに掲載されている特別テロ組織の選定基準

米国の安全保障上懸念がある組織は指定できるということもあって、いわゆる「テロ組織」ではなく、イランという独立国の正式な軍事組織(革命防衛隊)も実はSDGTのリストに掲載されています。ですのでこれはあくまで米国目線のテロ組織リストとしてご理解下さい。

同様に国連やEUも独自にテロ組織やテロに中心的に関与している個人のリストを作成しています。また、日本では外務省や警察庁が「国際テロリスト等財産凍結法」の関係で独自のリストを作成・公表しています。これらリストは必ずしも米国のリストとは一致していないこともありますのでご注意下さい。繰り返しになりますがこうした指定は、いずれも指定する側の主観が大きく関わってくるものなのです。

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EUが公開しているテロリスト組織の指定リスト

さて、こうしたテロリストのリストに個人や団体として掲載されるとどうなるのでしょうか?

 

実は我々市民生活には特段影響はありません。上記のリストを見たことがない、という読者の方も多いと思いますし、今リンク先でリストを見て頂いたとしても、リストに掲載されている団体名や個人名を見てなにがなんだかわからない、という感想をお持ちの方がほとんどでしょう。そうなんです、実はこうした「特別指定国際テロ組織」への指定があったからと言って、大多数の方の生活には影響はありません。フーシ派に留まらず、アフガニスタンタリバンやISISがテロ組織に指定されたところで、皆さんが日々何か変化を感じることはないはずです。

では我々が知らないところで何が起こるのでしょうか?テロ組織リストに名前が掲載された個人やグループは各国の法律に従って金融取引の停止、あるいは物資のやり取り等が規制されることになります。また、国によってはリストに掲載されている人物の入国を拒否することもあり得ます(細かく言えば、今回フーシ派はSDGTには指定されていますが、外国テロ組織=FTOには指定されていないため、物質的なやり取りや入国拒否は適用されません)。このコラムを読んでおられる方は「テロリスト」として指定される可能性はまずありませんので、こうした規制の詳細を知らなくても何ら問題がないのです。

 

ただ、一点だけ皆さんの日常生活にも関わり得るテロリストに対する規制があります。それは米国の財務省外国資産管理室=OFAC(オファック)による規制です。アメリカが指定する「テロリスト」個人あるいは組織との金融取引(外貨送金含む)はこのOFACが重点的に監視しています。そしてアメリカの制裁が厳しいのはその取引を仲介した銀行にも罰則が定められていること。たとえリストに掲載されているテロリストと無関係であり、顧客の希望・指示に基づいていたとしてもSDGTに指定されているグループ等との取引に関わった銀行は罰金や業務停止の対象となりえるのです。現在世界の金融の中心はアメリカであり、米ドルでの取引が国際取引の大半を占めます。このため、万が一にも取引が禁じられたテロリスト等への送金に関わった場合、最悪その銀行が関与するアメリカ経由、あるいは米ドルを利用する取引全部を停止させられる可能性があるのです。これは銀行側からすると一大事。ですので、現状米国国務省が指定するテロリストは金融業界では非常に思い意味を持つことになります。

なお、皆さんが外国送金を行う場合、まったく無関係なのにもかかわらず、「イランの…」「北朝鮮の…」と事細かに事前の確認質問を問われるのは銀行側が万が一にもテロリスト等への送金に関与しないための防御策なのです。

この項終わり