「海外安全.jp」はなぜ存在するのか
海外で「活躍し続けられる」日本人が増えてほしい
ご存じの通り日本は人口動態上どう見ても(日本人だけの力では)今の生活水準・経済状態を維持できそうにありません。次のグラフは「老後2000万円問題」で話題になった金融庁の報告書(金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」) から抜粋したもの。
現時点で頑張れば数年後に少子化問題、人口減少傾向が改善されるという話ではなく、少なくとも2050年くらいまでの人口推移は「既に起こった未来」であることはパッと見ただけでも感じていただけるのではないでしょうか?
日本国内だけでは行き詰まる、ならば必然的に海外に目を向けなければななりません。海外で活躍する日本人・日本企業(実際には日本発のグローバル企業になるのが理想でしょう)が増えてこなければならないということになります。より多くの日本人が海外で働くことになるでしょうし、より多くの日本企業・団体が海外で活動することになるでしょう。この動きは新型コロナウイルス感染症拡大に伴い一時的に停滞していますが、新型コロナウイルス感染症よりも長期的に影響が残ると想定される人口減少を考えればいずれ復活することを確信しています。
では、今の日本人・日本企業が海外で活躍し続けられるでしょうか?
海外の企業との技術/価格競争力であるとか、SDGs等企業倫理であるとか、あるいは法律・知財の点での争いであるとか、もしくはM&Aを含む財務戦略であるとか、そういった面での争いは見方によって優勢・劣勢いろいろ言われています。が、上記のような点に関する「戦況」は常時移り替わっています。また、それぞれの分野で専門の方々が必死で戦っているのを知っていますので私がいまさら何かできることも少ないでしょう。
他方で、前職の経験から気づいてしまったのですが、海外で自分自身の命を守るということ、とにかく生き残るために何をすべきか考え続ける人はごく少数です。その上世界的に見れば極めて安全度の高い日本と同じような感覚で海外に出てきている人も多くいらっしゃいます。また、企業・団体としては関係者を守るためにどこまで組織としてリスクを取るかを十分検討しているところも少ないですし、いざという時関係者を助け出せる体制を構築している組織や少なくともどういった指示を現地に出せばいいか決めている組織もまだまだ少数派です。
どれだけ技術競争力があっても、業務能力が高くても死んでしまってはその人の力はそれ以降発揮できません。テロであれ、強盗であれ、あるいは交通事故なり自然災害であれ命を落としてしまえばそれから先はありません。サッカーで言えば「一発レッドカード=退場」のようなもの。海外で身一つ、あるいは会社を背負って活躍できる日本人は国内市場が行き詰まるであろう日本にとって貴重な貴重な人財です。そういった人たちが簡単に命を落としていいわけがないんです。もちろんご本人にとっても命は大切ですし、ご家族・ご親族にしても大事な人を簡単に失って欲しくありません。
海外で活躍し続けられる人には、仕事の能力、語学力、ストレス耐性、あるいは異文化を受け止める力etcだけでなくなによりもその国・地域でのリスクに敏感で、自分の身を自分で守ることができる人でなければならないと考えています。
夏にコンビニに行く格好で冬山に登っている人が多い・・・
では、日本人は命を落とす確率を下げるよう準備をしてから海外に渡航しているのでしょうか?もちろんしっかりと現地情勢を調べ、リスク低減策を講じた上で海外にいらっしゃっている方もたくさんいます。しかしながら、私の感覚ではリスクに備え切れていない人、そもそも海外に日本と違うリスクが存在することを理解できていない人の方が多数派です。
少しだけ根拠をお話しましょう。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で海外旅行に行こうなどという空気ではありませんので海外旅行者数はかなり限定的でしょう。が、昨年2019年の夏休みには過去最高となる概ね300万人が海外旅行を楽しんだとされています。
他方で、外務省が運営する「海外安全ホームページ」の閲覧数や「たびレジ」の登録者数は日本人の海外旅行の伸びに追いついていません。外務省も一生懸命広報してはいるのですが、目標にしている数字がまだまだ足りていないと思います。(2018年は夏休み期間で50万人の新規登録を達成!と大々的に広報していましたが…旅行客だけじゃなくて省庁からの出張者なども含めての数字なんで実際には旅行者の10分の1くらいしか登録できていないのではないかと…)
観光庁や国土交通省の統計から年間海外に渡航する日本人は約2000万人。ではそのうち渡航先の治安や政治情勢についてしっかりと調べている人はどのくらいでしょうか?外務省の海外安全ホームページ閲覧者数は年間で推定600万PV程度(各種統計値から海外安全.jpで推定)。んん??桁が少なくとも一つ違う・・・。
ちなみに過去のニュースでも「たびレジ」利用率の低さは指摘されていました。
海外安全に高い関心 外務省「たびレジ」利用わずか3% 内閣府調査
これは外務省だけのせいではありません。いかんせん、「海外の治安情勢は日本と違う」、ということに気づいている日本人の方が少ないという要因も大きく影響しています。むしろこっちの方が影響が大きい、のかもしれないなぁ、と感じています。
海外で大きなテロがあって日本人が死亡しない限り、海外の治安に関するニュースはほとんど日本語メディアで取り上げられません。実際には世界のどこかで毎日1人以上が体に危害が及んでいそうな犯罪被害に遭っているのですけどね…。まぁそりゃ芸能人の不倫や政治家の汚職の方が視聴率なり販売部数が稼げるので致し方ないです。
これらの実態は「夏場、自宅近くのコンビニにふらっと買い物に行くような恰好で実は冬の山に登っている人が多い」ということを示しているものだと解釈しています。それがどれだけ危険なことかご本人は気づいていませんが、明らかに危険です。
どういうことか、大胆に例えればこういうこと。
「こんな人おらんやろ!」
と誰もが突っ込むと思いますが、事前に目的地の治安情勢も政治状況も調べずに旅行や出張に行っている方はこの写真と同じことをしているのです。
環境に合わせて服を選ぶ 安全対策も同じ | | 海外安全.jp
このままでは海外で活躍し続けられる日本人は増えない(あまりにも犠牲が多くなりすぎる)ということで外務省や大手セキュリティコンサルタントにはできないような海外での安全対策啓発活動ができないか、と考えた次第です。
海外での安全対策は意外と誰でもできることを広めたい
「そうはいっても、海外での安全対策ってプロにお任せしないとできないんでしょ?」
という声はよく聞きます。そして実際に海外の安全管理をやりますと言って活動しているセキュリティコンサルタントにも
「皆さんでは難しい海外での情報収集やいざという時の対応をワンストップで対応します!」
なんてことを言って営業活動をしている人たちが一定数います。が、そう言っている人たちが24時間365日顧客の安全を守るために動けるわけがないんです。日本政府だって、海外にいる日本人一人一人を万全に守ることはできません。自分の命を守るという命題はワンストップサービスで誰かに任せればいい、という話ではないはずなんです。工場の製造マシーンでもITシステムでもいいですが、設計から運営、メンテナンスまですべてプロに任せきりでうまくいった、なんて話聞いたことがありますか??
また、家電製品やレストランを想像いただければわかりやすいと思いますが、すべてにおいて万能の商品・サービスは存在しません。一定以上のレベルのメーカー・お店であればそれなりの満足が得られる商品・サービスが提供可能でしょうが、それでも得意な分野、苦手な分野があるのは皆さんのご経験からわかるはず。
海外の安全管理も同じで、情報分析に強い会社もあれば、機械警備に強い会社もあります。またアフリカに強い人材を多く抱える会社もあればアジアなら任せろ!という会社だってあります。会社が派遣するコンサルタント個人個人にも当然のことながら得意な分野と不得意な分野があるのです。こうした特色を無視して、「安全対策のプロ」という一括りにすることで思考停止してしまってはいないでしょうか?
にも関わらず、なぜか海外での安全対策は自分には無理、プロにお任せしたい、という状況になってしまうのは
「海外での安全対策は金がかかる」
「スパイ並みの情報収集術が必要」
「いざという時は武術で敵を倒せないといけない」
という謎の(!?)メンタルバリアがあるからかもしれません。いやいや、ジェームズ・ボンドもイーサン・ハントも架空の存在ですから…。当ホームページではお金がほとんどかからない安全対策の基礎知識や実践手法を無料でご紹介していますのでぜひともご関心のあるコラムをいくつか読んでみていただければと思います。
私は海外での安全管理にまつわるメンタルバリアを取り除き、
自分の身は自分で守る、
自分たちの仲間の命はできる限り自分たちの組織で守ろう、
という意識づけを広めたいと願っています。
そのために「海外での安全管理を文化に」を私のミッションステートメントとして掲げていますし、あちこちでの講演でも似たようなことをお話しています。
【セミナー報告】「海外での安全管理を文化に」(ASIS日本支部) | | 海外安全.jp
私は国際協力・開発支援の業界で育てていただきました。この業界ではよく使われるたとえ話ですが
「飢えている人に魚を釣ってあげてしまうと、自分たちがいなくなった時にまた飢える。私たちが本当にやるべきことは飢えている人に魚の釣り方を教え、自分たちだけで生きていくことができるようにすることだ」
というものがあります。
私が取り組みたいのはまさにこういった取り組み。「我々が守るので安全管理について皆さんは心配しなくていいです」というサービスではありません。お客様が自力で自分/自組織の安全を確保するために一定レベルまで主体的に取り組めるようにすることです。基本的な安全対策の理論や、適切なリスクテイクをしながら海外での活躍を継続できるような安全管理の実務をお伝えする。これが私の志であり、夢です。
とはいえ、実際にはリスクに備えていない人でも滅多なことでは危機的状況に陥ることはありません。一般犯罪も含めれば一日15~25人の日本人が世界のどこかで危ない目に合っているわけですが、大多数の方は危険な目に合わないのです。だからと言ってリスクに備えていなければいざという時に悪い方、悪い方に進んでしまうのが世の中というもの。
海外での安全管理は上述のように最悪命を落とす可能性もあるテーマです。たとえ多少の時間やお金をかけたとしても備えておくことで結果的に「大したことなかったね」と笑って済ませるような人を増やしたいですね。
まだまだ言い足りないことがないわけではないですが(笑)、長くなってきたのでひとまずこの辺で。
もしご縁があれば私が登壇する無料セミナーにご参加いただければ私のひととなりもわかっていただけると思います。さらに専門的な知識が必要であれば、有料セミナーや個別コンサルティングセッションにもお申し込みいただければ光栄です。
この項終わり