緊急時用資機材は「買って終わり」ではない!

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会計検査院「令和元年度決算検査報告」から

2020年11月10日、日本政府の会計検査院は「令和元年度決算検査報告」を発表しました。

会計検査院はその名前の通り日本政府や政府関係機関が税金を使って行う事業や各種民間団体への補助金が適切に使われているかを検査する機関です。より適切に税金が使われるよう、一年に一度検査結果は公表されており、この報告は国会にも提出されています。

 

今回公表された決算検査報告の中で、興味深い記載がありました。海外での安全管理にも応用可能な指摘だったので、このコーナーでもご紹介したいと思います。その記載とはこちらです。

 

自家発電機等を浸水のおそれがある場所に設置している災害拠点病院において、自家発電機等を浸水のおそれがない場所に移設したり、防水扉や止水板を設置したりするなどの計画を策定することなどにより、水害時に継続して医療を提供できるよう改の処置を要求したもの

 

audit-disaster-hospital
災害拠点病院への税金を用いた設備整備が十分に活用されない可能性を指摘した会計検査院資料

 

 

会計検査院の報告書に書かれた内容はどういうものだったのでしょうか?何が問題だったのでしょうか?

詳細は会計検査院HPで公開されているPDFを読んでいただければと思いますが、簡単に言えば

 

・災害が発生した際に被災者を診療するために「災害拠点病院」が指定されている

・国の税金が活用されている3つの独立行政法人が運営する病院のうち63か所が「災害拠点病院」に指定されているが、内23病院は災害時に浸水の恐れがある場所にある

・税金で配備した非常用電源のうち6つの病院にある合計10台の非常用電源や無停電装置(UPS)は浸水対策が不十分であり、災害発生時に医療用の電源が確保できない状態で配備されていた

・このままでは災害が発生した時にバックアップとして機能しないので改善を求める

 

ということです。

 

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緊急時に使えない資器材は緊急時用資機材ではない

近年「100年に1度」と評されるような豪雨、大洪水が頻発していることを思いだしてください。また、2018年の北海道胆振東部地震の後には大きな発電所が緊急停止したことによって一時北海道全体が完全に停電しました。ひとたび大災害が発生すると、普段当たり前のように使っている電気が自宅やオフィスで使えなくなることがあります。発電所が機能しなくなったり、途中の送電線が切れてしまったり、という時がありますね。そういう時大きなビルやマンション、病院等は大型の発電機が備え付けられてバックアップが準備されています。

 

特に災害が発生した後には負傷者が出ることがほとんどであり、災害発生時だからこそ周辺の人々を助ける災害拠点病院の存在は非常に重要です。当然ながら、そうした病院は災害があっても医療機能が提供し続けられるように、自家発電機や無停電装置(蓄電池と似た仕組み)が配備されていなければなりませんよね。

このため、国が一部資金を補助して災害拠点病院に指定された病院の一部に自家発電機や無停電装置の配備を行っていました。しかしながら、その一部が洪水や津波で浸水リスクのある場所で保管されているというのです。いざ災害が起こってしまった場合には、病院に電力が供給できずバックアップとして機能しない可能性があるので、「これでは意味がないですよね」、と会計検査院が指摘したのです。

 

 

当HPでは、「関連した独立行政法人、病院なにやっているんだ!!」と憤る意図はありません。事態は明らかになっており、改善に向けて進められているのですから外野の立場からの憤りにはあまり意味はないと思うのです。ただ、都道府県に災害拠点病院に指定される重要な病院ですら、会計検査院に指摘されるまで、

 

「緊急時の備えとして購入した資機材が本当に緊急時に使えるか考え切れていなかった」

 

という事実を改めて認識する必要があるのではないでしょうか?

当然ながら備えとしての資機材を購入、配置する時点では緊急事態はまだ発生していません。つまり、現在と異なる前提条件を頭の中で想定して資機材を選定し、配置場所、運用方法を考える必要があるのです。都道府県が指定する災害拠点病院という各地の重要な大病院ですら、できていなかったのですから、非常時を想定する、ということがいかに難しい作業であることが、今回の報告でよくわかりますね。

 

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運用できる状態になっているか定期的に確認を!

今回の事例を端的に言えば

 

「緊急時を想定して開発・購入・配備された資機材が、実際に活用されるシーンを想定できず適切に運用できる状態になっていなかった」

 

ということでしょう。

 

これは海外での安全管理実務上もよく観察される事態です。

 

・海外で緊急事態が発生した際に本社に召集するメンバーを決めた

⇒日本の深夜に本社に集まる交通手段がなく、日本の明け方にならないと対策本部がほぼ機能しなかった

・携帯電話が機能しない時のために衛星携帯電話を配備した

⇒衛星携帯電話は方角を確認し、屋外で電波をキャッチしてから使うが、その方法がわからずいざという時使えなかった

・監視カメラを配置して、不審者の接近、侵入を撮影できるようにした

⇒カメラ映像を監視する人がおらず、モニターにただ表示されているだけなので不審者に対応できなかった

・万が一武装グループに襲撃されても大丈夫なように防弾車を購入した

⇒防弾車の重量は通常車両の2~3倍。運転手が十分に訓練されていないと運転すらままならない

 

そんなの、考えたらわかるじゃない!?と感じられるかもしれません。

ただし、これらは海外の安全対策状況を確認するとよく見つかる事例です。大病院が浸水対策を施さずにに自家発電装置を保管していたことを思い出してください。何も起こっていない時には緊急時に発生しうる「不備」に気づけないこともあるのです。まして、日本では購入・配備し慣れていない資機材であれば、何のアドバイスもなく適切に配備・運用できることの方が稀でしょう。

 

 

安全対策のために購入した資機材が機能しなければ、人命にも関わりかねない事態に直結します。そして対応が遅れれば遅れるほど「負」のスパイラルに陥ってしまい、危機管理体制が全く機能しないという結果にもつながりかねないのです。せっかく貴重な予算を使って安全対策用の資機材を購入するのであれば、そういった資機材を使ったことのある人にアドバイスを求めてください。

 

 ・適切な配置になっているか

 ・導入後の運用、活用体制は十分整っているか?

 ・本当に必要な時スムーズに運用を開始するためにどんな訓練が必要なのか、

 ・定期的なメンテナンスは必要か、それは誰がどのようにやるのか?

 ・担当者が交代した時に、どのように引き継げばよいのか?

 

などなど。アドバイスを得るために多少の追加コストはかかるかもしれませんが、

 「資機材は用意してあったのにいざという時使えませんでした」

ではあまりにももったいないでしょう。民間企業の皆様には会計検査院は指摘をしてくれません。是非身近なその分野の専門家を活用いただけるようお願いします。もちろん当社でもご相談をいただければ御社の現状をお伺いした上で対応させていただきます。お問い合わせはコチラからお気軽にどうぞ。

 

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