避難できないというリスク

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チャーター機による救出劇

2019年12月下旬から中国武漢を中心に新型コロナウイルスを原因とする呼吸器感染症の感染が拡大しました。1月の春節休暇前後に大勢の人が国内外へ移動したこともあり、武漢や湖北省のみならず全世界で新型ウイルスの感染者が確認されています。当サイトのツイッターでは感染が大規模に広がる前の1月5日から注意喚起を行っておりました。

その後の経緯については日本語のテレビや新聞、インターネットメディア等でも多数報道されており、ご存じの方も多いと思います。1月30日にはWHO(世界保健機関)は中国発の新型コロナウイルス感染症について「緊急事態」を宣言し、国際的な対策を呼びかけており、今後も警戒が必要です。一般の方はインフルエンザや一般の風邪予防と同様、手洗い、うがいをしっかりすることが重要とされています。(なおWHOの緊急委員会の日本人メンバーである喜田先生は代表尾﨑の北大時代の恩師です

 

さて、当サイトは海外での安全管理を専門とするサイトですので、この新型感染症の詳細を論じるつもりはありません。詳細は医療専門のサイトにお任せしようと思います。ただし、今回のコラムで取り上げたいのは海外で危機に見舞われた際の現地からの避難についてです。

 

既にNHK等でも報じられている通り、今回の新型コロナウイルス感染症の対応として、日本政府はチャーター機を1月中に3便を用意し、合計565人が帰国しました。中国政府が武漢市への出入りを封鎖したこともあって、感染の中心だった武漢に滞在していた邦人は身動きが取れなくなっていたため、避難するにはこの方法しかありませんでした。

 

日本政府主導のこの避難オペレーションを改めて振り返って教訓を考えてみましょう。

第三便の到着を報じるNHKの報道見出し

 

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海外進出時は「避難できなくなる」リスクも検討

 

海外での安全管理について、様々な対策をご紹介してきましたが避難についてはほとんど触れてきませんでした。一般の方が文章でイメージできるのはテロや犯罪、もしくは交通事故のような「直接身体や金品に被害がある」リスクではないかと思います。そのため、文章ではお伝えしづらい「避難できなくなる/身動きが取れなくなるというリスク」を取り上げることはしなかったのです。

 

ただし、具体的なご相談を頂いた場合に必ず触れるのが「避難できなくなるリスク」。海外のどこかに進出する場合目に見えるリスクであるテロや犯罪被害の実態、政治的な不安定さなどだけではなく、目に見えづらいリスクも検討するようおススメしています。テロや犯罪と違い、この種のリスクは直接現地の関係者の身体や現地資産を棄損するものではありません。移動できなくなるだけならば特段被害は発生しないのです。

しかしながら、避難できなかったり移動できなくなると、万が一危険が差し迫ったとしても自宅やホテルに籠城する以外に打つ手がなくなります。今回のコロナウイルスのように感染が拡大しつつある都市内で籠城することはリスクの回避にはつながりません。また交通が途絶し、選択肢がなくなると、取り残された人の精神的ストレスレベルは急激に高まります。

こうした背景もあって、海外では安全を確保するための最後の手段としての避難は「切り札」として残しておくことが推奨されます。

 

アクセスが山間部の一本道のみの場合「避難できない」リスクを抱えることになる

 

例えば過去に某国で事業活動を行っているお客様から「同国内の山間部に新たな事業展開を検討中だが、安全上どう考えるか?」というお問合せを頂いたことがありました。その際代表の尾崎からは

 

 ・現地の治安上は問題ないと考えられる

 ・ただし、主要都市から現地までのアクセスが山間の一本道で万が一の際の脱出経路が一本しかない

 ・別方向から山岳地帯を抜けて近隣の街に抜ける経路を確認をしてから進出を再検討したほうがよい

 

というアドバイスを行い、代替避難経路を実際に車両で走って確認したことがありました。進出検討地の現時点での治安、政情などが問題ないか、と同時に万が一事態が悪化した際のオプションも必ず検討してアドバイスするのが我々のやり方です。

 

 

それでは最後に「避難できなくなる」リスクを考える際に我々が検討する項目をリストアップしておきましょう。ご参考になさってください。

 

・万が一移動できなくなるとしたらその理由はなにか?

・避難経路・ルートは複数確保できているか?

・空港や港湾等までのアクセス手段が複数確保できているか?

・空路・陸路・海路等、その地を離れる手段の途絶可能性とその対策は?

・万が一の際の退避支援サービスが確保できるか?

・避難/移動できなくなった際に飲食料品、常備薬等十分に備蓄できるか?

 

この項終わり