公衆電話の使い方講座
今年も日本列島をさまざまな自然災害が襲っています。著名な温泉地である熊本県人吉をはじめ、岐阜県や広島県、青森県などでも既に被害が発生していると報じられています。被害に遭われた方へ心よりお見舞い申し上げます。
さて、自然災害の時以外では活躍する機会が減った公衆電話について、興味深い統計値を発見しました。2018年3月にNTT東日本が実施したアンケートでは
そうです。
携帯電話がつながりにくくなってしまった
携帯電話の電池が切れてしまった
といった状況で役に立つのは街中に設置されている公衆電話。2018年7月の西日本豪雨の際にも公衆電話に長蛇の列ができたほど、非常時の連絡に活躍してくれました。遡れば1995年の阪神大震災の際も携帯電話や一般家庭の電話回線がダウンし、公衆電話に多くの方が並んだという記録が残っています。
ただ、災害が発生しておらず、携帯電話の電波状況も良好、充電も全く心配ない、という状況で公衆電話を使うことはほとんどありませんよね。最近では撤去された公衆電話も多く、一時に比べると公衆電話を目にする機会も減っています。そのため、特に若い人を中心として公衆電話の使い方がわからないという事態になっているようです。
自治体、学校等では非常時に備え、公衆電話の使い方を学ぶ講座を行うところもあるとのこと。NTT東日本も公衆電話そのものに、使い方を説明したシールを張るなど、啓発を行っています。また、ホームページでも使い方を丁寧に紹介しています。
こうした取り組みにあたって、一部の方は
いまさら公衆電話を設置するのは非効率
どうせ災害時に公衆電話には長蛇の列ができて使いづらい
携帯に公衆電話アプリのようなものを入れればよいのでは?
といった意見を述べられており、今回はこの点について考えてみたいと思います。
緊急時のバックアップは当たり前が通用しない時に使う
自然災害であれ、海外における緊急事態であれ、ビジネス上のトラブル対応であれ、万が一の際には「バックアップ体制」を構築することが基本です。
例えば、
携帯電話の電波が不十分なので固定電話や公衆電話を使う
海外滞在中、周辺道路が封鎖されたので手持ちの飲食料品でしのぐ
会社の取締役が商談直前倒れてしまい、部課長以下で力を合わせ乗り切る
などが非常事態とそれに対応したバックアップ体制と言えますね。
トートロジーのようになってしまいますが、こうしたバックアップ体制は非常事態に使うためのものです。逆に言えば、万が一の事態が発生していない平時の時点で、バックアップに頼ることは通常ありません。
我々の日常生活ではあえて公衆電話を使うこともないですし、外を自由に出歩けるのであれば、念のために持っているお菓子やペットボトルを飲み食いする必要もないのです。適切な役職者がバリバリ活躍しているのであれば、日ごろ定められた役割分担に沿ってそれぞれが役割を果たせばよいでしょう。
ただ、さまざまなシーンで非常事態は必ず発生します。自然災害も海外での治安不安定化も、ビジネス上のトラブルも「そこまでは想定していなかった」と思うようなことはいつか必ず起こるもの。
その時に活用するバックアップは普段使っていないもの=使い慣れていないものであることを改めて認識する必要があるでしょう。そうです、冒頭とりあげた公衆電話のように。
非効率でも独立したバックアップを用意する
もう一点、非常事態の際に活用するバックアップの特徴を考えてみましょう。それは、非常事態が発生した際に機能がストップしてしまうシステムには依存してはいけないということ。
平時では当たり前となっていることも当たり前ではなくなるのが非常事態です。例えば
電気は常に安定的に供給されている
システムが設置されている場所まで容易にアクセスできる
必要な人員がその場に揃っている
といった前提条件があって初めて機能する仕組みでは、非常時にその前提が満たされているかどうかわかりません。このため、非常時にバックアップシステムを動かそうとしても、
電気がないとバックアップが動きません
バックアップシステムまでの道が寸断されて起動できません
活用するために必要な人員が集まれませんでした
というのでは、そもそもバックアップとして成立していないのです。
公衆電話の特徴は携帯電話の電池が切れようが、電波が停止しようが、大規模な停電が発生していようが、通信機能は担保されるという点です。先ほど触れたような公衆電話の設置コストや場所が無駄(非効率)なので、アプリで代替できないか、というご意見はこの点でバックアップの要件を満たしていません。
確かに平時に使わない公衆電話をあちこちに設置することは費用の面でも場所の面でも非効率であることは誰も否定できません。ただし、こうした非効率はいざというときに真の意味でバックアップ体制を構築するための「必要不可欠な無駄」とも言えます。
次々と自然災害に見舞われた日本社会が、公衆電話やその使い方にヒト・モノ・カネを投資するように、海外での万が一に備えて一件非効率であっても、独立したバックアップを用意しておく、「必要不可欠な無駄」への投資が進むことを期待しています。
なお、公衆電話があっても、連絡先の電話番号がわからなければ緊急時の連絡はできません。海外でも日本でも同じですが、本当に必要な電話番号は携帯電話のデータのみならず、紙の形でも持っておくことをおススメしています。
この項終わり