仮説を否定できればOK。否定できない証拠が出てきたときは要警戒!
一つだけ、実例を挙げます。最初の調査項目(過激派の勢力が一気に拡大しているのは事実か)を調べている時に、下のような勢力拡大が判明した場合には一層要注意です。
過去一年で武装勢力の活動が活発化しており、首都にもその影響が迫ってきていることがわかるからです。これまで通りの対策ではなんらかの事件に巻き込まれてもおかしくないですね。武装勢力の攻撃手段なども調べてこれまでよりも一段高いレベルの安全対策措置を講じる必要性が明確になります。
この流れを受け、2019年ブルキナファソに対する日本政府外務省の危険情報も徐々に引き上げられています。国家レベルで「変化」に対応した事例と言えますね。
もし、こうした証拠がなく、過去数か月から一年、武装勢力の活動が活発化していないというデータが出てくれば一安心。最低限の警戒を維持して、現地での活動を継続いただければと思います。
また、2020年1月時点では新型コロナウイルス感染症による感染例が世界各地で報告され続けています。新型コロナウイルスの影響がどの程度深刻なのか、感染性、病原性の二つの観点からWHO等専門機関での検討が進んでいます。結論はコラム執筆時点で出されていませんが、中国政府は武漢市を隔離し住民を同市内に封じ込める、中国からの団体旅行を禁止する、という強硬な対策により封じ込めを図っています。これまで得られている致死率データはそれほど高いわけではありませんが、実態が不明である以上最悪の事態を想定して対策を講じたということでしょう。
この「最悪の事態が自分たちの身に迫っているという仮説を立て、それを否定する証拠を探す」という手法、実は目新しいものではありません。常にリスクを先取りし、そのリスクが現実にならないための予防策をとることが重要な医療や金融の世界では有名な格言があります。
それは
「Hope for the Best, Plan for the Worst =最善を望みつつ、最悪に備えよ)」
というもの。
ひとたび有事が発生すれば人命を失いかねない安全管理の世界でもこの言葉は当てはまるのではないでしょうか?
最悪の事態を想定するというのは、万が一自分たちの仲間が命を落とす可能性があるかもしれない、という仮説を立てること。仮説を踏まえて、命を落とすような事件に巻き込まれる可能性は低いと言える証拠はないか?を丁寧に確認してみることが大切です。
もし大丈夫だと言える状況であれば当初感じた治安情勢の「変化」は一旦無視してもよいかもしれません。ただし、最悪の事態は発生しない、という証拠が確認しきれない場合は最悪の事態を回避できるよう、現状よりも一段高いレベルの安全対策措置を講じることが大切なのです。
備えたけれども大きなテロや襲撃が起こらなかった、というケースはどうでしょうか?備えは無駄だったと言えば無駄だったかもしれませんが、結果的には全員が無事でいたのですからそれでよいのではないでしょうか?
医療でも金融でも安全管理でもそうですし、一般の営業活動でもそうですが、常に最善の結果を祈っているはず。その最善の結果を得るためには、場合によっては成果に直接つながらない努力も多くあるはずです。
何も起こらなかったから最悪への備えは無駄だった、ではなく、最悪に備えていたからこそ、最善への祈りが通じることがある、と考えたほうがよいのではないか、と弊社では考えています。
【次ページでは・・・過去の事例からも仮説を立てることができます】