委託先への丸投げは「人質」を取られること

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ITベンダーにとって顧客からの依存は最高の状態

単にデジタル化が遅れているだけであれば、これから官民あわせてより良い方向に改善していけばいいだけです。しかしながら、日経新聞の記事から尾崎が「もっと恐ろしい話」だな、と感じたのはシステム開発会社、ITベンダーにとっては行政のシステムは省庁の数だけ、自治体の数だけ、分野ごとに違ったシステムが構築されるだけ、収益源になるということです。つまり、できるだけ多くのバラバラのシステムを発注してもらい、それぞれに修理や更新、日々のメンテナンス費用をもらった方が企業として利益が出るということ。

 

民間企業であればより全体を俯瞰しながら必要な費用も計算してシステムを統合しよう、というインセンティブが働きます。しかしながら、行政は官庁ごとのある程度の縦割りの仕組みや地方自治の制度の関係で全体を俯瞰することがやや難しいという事情があるようです。加えて行政機関のシステム、ITを担当する公務員も人事異動の関係で2~3年に一度移動してしまうという背景もあります。このため、行政機関で活用しているシステムに徐々に詳しくなった担当者はちょうど全体像が分かり始めた頃に他の部署に異動、また知識が少ない担当者の方が後任に着任する、ということのようです。

 

 

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仕事を「丸投げ」してしまうことには弊害も(写真素材は写真ACより)

そうなってくると発生しうるのが、特定ベンダーへの「丸投げ」・もたれ合いです。知識のない新任者がシステムの見直しや担当ベンダーの変更を合理的に説明することは極めて難しく、結果的に既に開発済みのシステムを継続的に利用するよう契約先ベンダーが誘導するような形にもなりかねません。

 

システム会社・ITベンダーとしても知識のない担当者やその上長に

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システムの運用コストを下げる手段として最近注目されているクラウドへの移行に当たっても、発注者側である省庁や自治体の担当者が新しいシステムの仕様書をかけなければ発注すらできないのです。最も恐ろしい状態は契約先のベンダーが稼働中のシステムをあたかも「人質」のようにしてシステムの変更を実現させない(自社への発注を続けさせる)という可能性もあるそうです。これまでシステムコンサルタント会社やITベンダーに「丸投げ」していた組織ほど、デジタル化に向けた取り組みは困難な道のりが予想されますね。

 

 

【次ページでは・・・安全対策を外部企業に「丸投げ」したらどうなるか?】