世界が変わった2001年9月11日
代表の尾崎です。本日どうしても公開したかった記事をお届けします。年初にも別のコラムで2021年は大切な節目です、とお伝えしましたが海外での安全管理に関わる者として避けて通れない日を忘れないようにしたいものです。
20年前の今日、2001年9月11日アメリカ東部ニューヨークにある貿易センタービルに、ハイジャックされた航空機が衝突し二棟の高層ビルが崩落しました。事件の概要は多くの日本語メディアでも報じられているのでこの項では事案の詳細は述べません。ただし、大勢が当たり前のように働いていた大型オフィスビルが崩壊したことで、3000人近い死者と25000人以上の負傷者が出ています。日本人の死傷者も同ビルに入居していた企業関係者を含め24名が犠牲になっています。
アメリカ国内では多くテロや無差別銃撃事案が発生してきた経緯はあります。ただし、外国を拠点とする組織的な勢力により、アメリカ本土に対する大規模な同時多発テロという意味ではここまでのインパクトを与えた事案はないと言えるでしょう。この後、アメリカ軍は事件に関与していると見られたオサマ・ビン・ラーディンの潜伏地であるとしてアフガニスタンへの攻撃を実施しました。本年2021年8月末まで約20年というアメリカ建国以来最長の戦争の起点という意味でも、本テロ事案が世界を変えたと言っても過言ではないでしょう。
直接的に本事案に巻き込まれて死傷された方はもちろんのこと、お亡くなりになった方のご遺族や、現場で救助対応をされた方など精神的な負担を強いられた方にとってもこの事件の影響は大きかったはずです。もし、その後に続くアフガニスタン紛争での死傷者、外国軍兵士の犠牲も含めれば数十万人単位で影響があったと言わざるをえないものです。改めて本事案で直接、間接的に被害に遭われた方のご冥福をお祈りするとともに、心よりお見舞い申し上げます。
現在生きている我々からすると、これほど深刻な影響を広範囲に及ぼした事案からしっかりと学びを得て、二度と類似の事案を繰り返さないようにすることが大切なのではないかと感じています。政治的あるいは軍事的に影響力のある方であればテロを未然に防ぐという動きができるかもしれません。こちらも多くの議論がありますが、現時点でこれだ!という解はなさそうです。他方、政治や軍事に関わることのない多くの一般の読者の皆さんにとっては万が一テロに巻き込まれた際、どうすべきか、という教訓を忘れないようにしたいところです。
悲惨なテロでも生存者はいる
この悲惨なテロ事案で崩落した貿易センタービルの中で勤務していた方を二つのグループに分けることができます。残酷な表現にはなりますが、テロに巻き込まれて死亡してしまった方、とそれでも生き残った方。この二つを分けたものは一体何でしょうか?
これまで当サイトでは、海外に渡航される方に向けて「テロの巻き添え被害に遭わないために」どうすればよいか解説してきました。1)時間、2)空間、3)感覚、4)運の要素が関係するため、自分でコントロールしうる1)~3)を意識してテロの発生しそうな状況に近寄らないようにしましょう、というお話です。
ただし、一般論としてハイジャックされた飛行機が自分のいるビルに突入するという事態は想像だにしないもの。リスクがありうる不特定多数の人が入り込みうる空港やホテルのロビー、軍や政府機関といった場所ではないわけですし、オフィスによってはセキュリティカードなどがないと入れないように設定されていたことでしょう。そのような場で勤務することそのものはリスクを取っているとは言えません。時間帯にしても、特段リスクイベントが予定されていたわけでもありませんし、いつもと変わらない勤務時間でした。数キロ先から突入してくる飛行機を感知する、というのは、周囲の不審な動きを察知するのと違い、普通の人間ではほぼ不可能でしょう。
つまり、この事案で被害を受けた方はひとえに運が悪かったとしか言いようがないでしょう。この事案についていえば個人の努力で「テロの巻き添え被害に遭わない」ことは不可能に近かったと感じています。では、テロの巻き添えに遭ってしまった場合、その後の生死の分岐点はなんなのでしょうか?そこに個人として何かできることがあったのでしょうか?
緊急事態に巻き込まれたとき最も怖いのはパニック状態になり正常な思考回路が維持できなくなることです。また「正常性バイアス」と表現されますが緊急事態においてもいつもと同じような行動をとってしまうことも要注意です。さらに、多数の人がいる場所で緊急事態が発生した場合、集団心理により非常口等に殺到するなど群衆の行動によって被害が拡大してしまうという事例もあります。
残念なことにテロに遭ってしまった場合、巻き込まれる前の自分に戻ることはできません。過去の人生で経験したことのない非常事態下で生き残る要素とはいったい何なのでしょうか?
生き残る判断・生き残れない行動
残念ながら大規模テロ、あるいは大規模災害は私たちの予期しない形で発生してしまいます。一定程度、リスクを避ける方法はありますが、100%回避する方法はありません。万が一巻き込まれてしまった場合にはその時点、その場の状況に応じて生き残る確率の高い判断、行き残るための行動を積み重ねるしかありません。
ではどういった行動が生き残る確率を挙げられるのでしょうか?ヒントになりそうな情報が集められた、参考図書をご紹介したいと思います。
「生き残る判断・生き残れない行動(原題:The Undhinkable)」(アマンダ・リプリー、光文社)
この本では同時多発テロを含む大災害・テロに巻き込まれながらも生き残った方の多数のインタビューから、少しでも生き残る確率をあげるにはどうしたらよいか解き明かそうとした試みです。著者はTIME誌に所属するライターであるアマンダ・リプリーさん。各種事件、事故の生存者だけでなく航空機安全の実務家や爆発物の研究者、心理学者を含む専門的な知識を持つ方にもインタビューを行って、証言者らの行動の何が良かったのか、事故に巻き込まれた際どんな心理状態になるのかなどを説明してくれています。
結果的にこれが生き残るための絶対条件であり、こうすれば生き残れるという結論には至りません。これはどんな事件、事故が起こるかわからない以上当然のこと。しかしながら読み進めるうちに皆さんは、以下のような問いを投げかけられます。この問いをご自身で考えていく中で、万が一皆さんが同時多発テロや大規模災害に巻き込まれた際役に立つかもしれません。
航空機がビルに突入した後エレベーターで一回に移動しようとしたのは正しかったのか?
避難を呼びかけられた際、自席に戻って財布や読みかけの本などを取りに行ったのは正しかったのか?
元軍人の警備主任が呼び掛けた避難訓練をまじめにやっていた会社(モルガン・スタンレー)の結末は?
パニック状態になった時、脳の中では何が起こっているのか?
この項終わり