予測困難なリスクにどう立ち向かうか
みなさんこんにちは。代表の尾崎です。
激動の2020年がまもなく幕を閉じようとしています。日本国内にいらっしゃる皆さんはもちろんのこと、全世界に影響を与え、そして今なお与え続けている新型コロナウイルス感染症の第一報から約一年が経過しました。2020年末の時点では依然として完全な終息のめどはたっておらず、むしろ感染力の高い変異種の登場など、ますます先行きが怪しくなっている状況です。
海外で事業展開をされている企業/団体の皆さんは今後も関係者の感染症対策を継続しつつ必要な業務を行う体制を継続しなければならないのではないでしょうか?今回の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)はあらゆる形で人間が暮らす社会の在り方を変えました。日本において言えば、行政のデジタル化の遅れ、民間の企業や団体の働き方、学校教育や入試制度の在り方、そして何より海外渡航や海外事業展開計画の課題が浮き彫りになったと言えます。
特にビジネス面への影響という観点では
1)海外事業現場への渡航なしにどのように支援活動を継続できるのか検討せざるを得なくなったこと
2)従業員・関係者の健康管理体制を再考せざるを得なくなったこと、
3)外務省と言えども万が一の際日本人を避難帰国させることが容易ではないことが明らかになったこと、
の3つが重要な点と思います。この3つの課題が明確になっていながらなお、企業・団体として従来通りのリスク管理体制でOK、という組織はないのではないかと思います。
さらに、海外での事業環境に変化をもたらしているのは感染症だけでは決してありません。次のグラフで示すように、テロによる死者が発生する国の数は世界の約3分の1、60~70か国にも達しています。15年前の2004年と比べるとその影響は2倍に広がっていると言えるでしょう。今や海外事業の現場においてテロや襲撃によるリスクを念頭に置かざるを得ない環境であることも認識しなければならない時代になりました。
感染症、テロや襲撃、あるいは昨今多くの国で発生している過激なデモなど、海外で事業活動を行う際に留意しなければならないリスクは増え続けています。そしてリスクの多様化と歩をあわせるように、いつ、どのような形でリスクが表出するか、予測しづらくなっている傾向もうかがえます。つまり海外で事業を行う環境が大きく変わっていること、これまでと同じではない状態にあることは間違いありません。
多様かつ不確実なリスクに適応する
海外の事業環境が大きく変化していることは皆さんも肌で感じておられるのではないでしょうか?しかしながら、リスクが多元化している、リスクが予測困難になっているからと言って海外への事業展開を止めてしまっていいものでしょうか?日本国内の人口減少・市場縮小は「既に起こった未来」であり、日本国内だけでビジネスが成立する時代は続きません。感染症リスクがあろうとも、テロや襲撃のリスクがあろうとも、日本とは次元の違う政治的リスクがあろうとも、企業は海外での事業活動を続けざるを得ないはずです。
事業環境が変化したにも関わらず、同じ事業活動、事業実施体制を継続しているとどうなるでしょうか?過去、地球の自然環境の変化に対応できなかった生命体は三葉虫やアンモナイト、恐竜のように絶滅したことが知られています。顧客ニーズの変化や技術革新があったにもかかわらず、新商品や新しいサービスを開発できなかった企業は市場から退場を余儀なくされてきた事例が多いことは皆さんの方が多くご存じかもしれません。環境が変わればそこで活動する存在は適応せざるを得ないのです。
リスクへの備え、という観点で言えば、オンラインバンキングの発達で便利になった反面、企業側およびユーザー側のいずれかに脆弱性があると預貯金や個人情報を盗まれる事例も増えてきました。単に「便利だから活用する」が通用しない環境になっていると言えるでしょう。官民を挙げてサイバーセキュリティーを強化する取り組みは始まっていますが、企業レベル、個人レベルでもITリテラシーを底上げするほかないでしょう。
では、海外で事業活動を展開する企業・団体は世界の感染症やテロなどの発生状況といった環境の変化に十分対応できているでしょうか?2020年を振り返ってみると、新興感染症の影響は詳述する必要もないほど痛感されているはずです。多くの企業・団体で海外でのトラブルに見舞われた場合、最後は日本政府や専門のリスク管理会社に任せよう、という姿勢ではなかったでしょうか?
しかし、今般のように全世界同時多発的に混乱が広がった場合対応を外部に依存するだけでは十分でないことは痛感されている通りです。これまでと同じ危機管理体制、社内体制で海外事業を再開するのはあまりに無謀だと思います。
先に例に挙げたサイバーセキュリティの分野では、外部機関に依存するのではなく、企業・団体が社内に専門家を育成する動きがはじまっています。サイバー攻撃が複雑かつ頻繁になっていることから内製化が避けられなくなってきているようです。海外での安全対策体制強化も同じことが言えます。新型コロナウイルス感染症の終息が見通せず、また別の感染症のパンデミック可能性も指摘されています。また、コロナ禍でテロがさらに拡散する可能性も指摘されています。
リスクが多元化、複雑化し、予測も難しくなっている現在外部に依存したリスク管理体制で生き残っていくのは容易ではありません。海外展開している企業・団体はいざという時に従業員/関係者を守るためリスク管理体制を組織文化にしていく必要があるのではないでしょうか?
安全管理や健康管理体制を社内で完結させるというわけではありません。組織レベルでも、個人レベルでも平時にはリスクへの備えが十分か自ら確認し、予防策を講じること、また緊急事態が発生した際に迅速な関係者保護ができるか。これらは外部に依存していてはできません。外務省やリスク管理会社とも連携しながらリスク管理体制を内製化していく必要があると考えます。
危機管理は人材確保の必要条件にも
リスク管理体制の内製化、と言われてもそんなことできるのか?というお声もあるでしょう。実際問題感染症はもちろんのこと、テロや襲撃事案、政治情勢の急変など各種リスクを正確に見通すことは不可能です。現時点では想像しないようなリスク、いわゆる「ブラックスワン」の存在にも気を配らなければなりません。
100%こうなる!、これでこの組織の安全対策・健康管理は万全だ!と言い切れるようになる必要はないのです。というよりも、非常に不確実な世界情勢の中でそのような状況に至ることは不可能だと感じています。むしろ、どのようなリスクが自分の組織・関係者に影響を及ぼすのかを理解し、リスクが発生した際に臨機応変に対応する「リスク対応力」を磨くことが重要なのではないでしょうか?この「リスク対応力」とは言い換えれば従業員・関係者を守り抜く力であり、それはいかなる環境においても海外での事業展開を継続できる力とも表現できます。
ハラスメントや長時間労働の問題に対応できない企業はブラック企業と指弾されるようになりました。20~30年前には多くの組織で広く行われていたこと、例えば
新人は先輩よりも30分出勤しなさい
女性社員は定期的に同僚にお茶を出す
一日〇本営業電話をかけなさい
上司・先輩からの宴会等への誘いは断ってはいけません
といった教えは今ならほぼ確実にパワハラとなるでしょう。過去にはそれでよかったかもしれません。しかし、もし今でもこのような組織文化が残っているとすれば、その組織はブラック企業のレッテルも避けられそうにありません。場合によっては人材の確保が難しい、退職者が増える、等現場オペレーションにも支障が出かねません。
海外事業展開を行う企業・団体にとって世界で活躍できる貴重な人材を確保することは事業展開上の必須条件です。2021年以降、そうした人材を呼び込むためには各社内の安全管理・健康管理体制も必要になってくるのではないでしょうか?外部にお任せしてるから大丈夫、ではなく、社内の担当部署の強化、担当者の能力開発も含めて組織的なリスク管理体制の強化が必要なのだと考えています。
まもなく始まる2021年が皆さんにとって安全・健康が確保された一年でありますように。そして多くの企業・団体でリスク管理体制の組織文化化が進みますように。2020年末に、尾崎からのささやかな願いでした。
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